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4.5 壁エレメントモデル(耐震壁)

耐震壁を壁柱(BeamElement)と剛梁変換による 4 節点 24 自由度モデルで算定します(壁エレメント置換モデル。一貫構造計算で標準的に用いられる実務的モデル化)。

壁の入力の正は壁版(WallPlate)です(1.9 壁の断面と自重)。解析用の壁要素はモデルに保存せず、準備計算・解析・診断の直前に壁版から都度生成します。

壁要素になるのは、壁領域全体を覆う 4 節点の壁版だけです。 具体的には、柱・梁に囲まれた壁版(Enclosed)の境界節点が、その壁版が属する壁領域の境界節点と一致し、その節点数がちょうど 4 で、かつ断面が割り当てられている場合に限ります。

この条件は壁エレメントの定式化そのものから来ています。壁エレメントは下辺 2 節点・上辺 2 節点を両端ピンの剛梁で結ぶ 4 節点 24 自由度のモデルなので、次の形では前提が崩れます。

  • 壁領域の境界が 5 節点以上のとき(上下の大梁が中間節点で分割されている場合など)。剛梁は四隅しか結ばないため、中間節点が壁にめり込む向きへ動けてしまいます。
  • 壁領域が間柱で複数の壁版に分割されているとき。壁版ごとに要素を作ると、1 本の長い壁柱が複数の細い壁柱に割れ、面内剛性が実態と食い違います。

壁要素にならない壁版(間柱で分割された壁版・腰壁・垂れ壁・パラペット・自立壁・5 節点以上の壁領域内の壁版)は、荷重だけを持つ壁版として扱います。これは異常な状態ではないので、診断には出しません。自重は境界の辺へ分配します(1.6 自重の長期応力解析への接続)。剛性は、条件を満たすものだけフレーム内雑壁(袖壁・腰壁・垂壁)として周辺の柱・梁の断面性能へ算入します(条件は 4.1 ティモシェンコ梁要素)。板厚を引けない壁版、床領域に取り付く自立壁、取付き線が梁の全長を覆わない取り付く壁版は算入の相手が決まらないため、自重だけを持ちます。

取り付く壁版(パラペット・腰壁・垂れ壁・自立壁)も解析要素にはしません。耐震壁要素は柱・梁に囲まれた壁版を前提とするためです。取付き先と自重の分配は 1.9 壁の断面と自重、行き先は 1.5 地震用重量・層データの生成 を参照してください。

壁要素の幾何

節点は入力順に依らず標高 \( z \) で下辺 2 節点・上辺 2 節点に分け、上辺は下辺の一方に近い側を対応付けます。壁長 \( l_w \) は上下辺長さの平均(台形壁に対応)、壁高さ \( h \) は上下辺中点間距離とします。

耐震壁として扱う条件

耐震壁として扱うのは、上下の辺がともに大梁で囲まれた壁です。壁が負担した面内せん断は、壁エレメントの上下の剛梁を介して大梁へ伝達されるため、上下辺のいずれかに大梁がない壁は伝達先を持ちません。そのような壁はフレーム内雑壁として扱います。最下階で基礎梁をモデル化していない壁も、下辺の伝達先がないため対象外です。

左右の鉛直辺(側柱)は要求しません。側柱を持たない壁は、壁の縦筋が一様配筋であるとみなして等価引張鉄筋比を算定する正規の対象となるためです。

辺と部材の対応は節点の一致で判定します。壁エレメントの剛梁は四隅節点の並進しか伝達しないため、壁の四隅とは別の節点を使う部材は辺を構成しているとみなしません。大梁とみなすのは勾配 5% までの水平材で、曲げを伝達しないブレース(軸材)・面要素・バネは大梁として数えません。大梁として扱う要素は線材(梁・ファイバー梁・マルチスプリング梁)に限ります。

側柱として数えるのは、線材のうち梁要素だけです。側柱は面内両端ピンの要素へ差し替えて扱いますが、この差し替えに対応するのが梁要素のみのためです。ファイバー梁・マルチスプリング梁の側柱を数えてしまうと、断面を壁のせん断断面へ算入しながら柱自身も面内せん断を負担するため、面内せん断の二重計上になります。

耐震スリットが 4 辺のいずれにも無いことも、材種を問わず課します。切れた辺があると、壁が負担した面内せん断を周辺の柱梁へ伝えられないためです。

RC 壁には、上記に加えて RC 規準に由来する次の 2 条件を課します。壁厚が 120 mm 以上であること、開口周比 \( r_0 \le 0.4 \) であることです。鋼板耐震壁にはこれらを課しません。鋼板は板厚 9〜16 mm 程度で用いるため、材種を問わず 120 mm の閾値を課すとフレーム内雑壁に落ちてしまうためです。

RC 壁とみなすのは、断面形状が RC 壁形状(壁厚と壁筋比を持つ RC 壁専用の形状)であるか、または材料の区分がコンクリートである壁です。それ以外は鋼板耐震壁として扱います。

壁と周辺架構の構造種別

耐震壁とその周辺架構(上下の大梁・左右の側柱)は、構造種別をそろえてください。壁エレメントは、面内せん断を壁が負担し曲げを周辺架構が負担する置換モデルであり、壁と周辺架構は一体の耐震要素として挙動します。RC 壁に S 骨組を組み合わせた混合構造は、耐力式・剛性評価の前提が成り立たないため扱いません。

構造種別が食い違うモデルは、解析の入口で入力エラーとして停止します。許容応力度計算の剛性・断面検定にも効くため、保有水平耐力計算だけでなくすべての解析で検査します。判定には材料の区分(2.5 構造種別の判定)を用い、材料が設定されていない部材は別の入力チェックが扱うためここでは対象外とします。

算定式

壁柱の軸剛性用断面積(壁筋考慮):

\[ a = t \cdot l_w \cdot \text{rebar_factor} \]

\[ \text{rebar_factor} = 1 + (E_{\text{steel}}/E - 1) \cdot p_s \]

面内曲げ:

\[ i_z = \frac{t \cdot l_w^3}{12} \cdot \text{rebar_factor} \]

面内せん断は、壁板断面と側柱断面の和を 3.5 耐震壁のせん断形状係数 κ で除し、開口低減率を乗じます。面外せん断にも同じ開口低減率を乗じます。

剛梁変換(並進は平均、回転はレビ・チビタ記号で ω):

\[ K_{24} = A^T \cdot K_{\text{col}} \cdot A \]

面内せん断の非線形性

非線形解析では、壁の面内せん断を終局せん断強度 \( Q_u \) で頭打ちとする弾完全塑性骨格の復元力ばねとして扱います(8.4.2 耐震壁(せん断非線形トリリニア))。せん断モード(上辺 2 節点の壁面内水平並進)に沿う塑性すべり \( \gamma_p \) を導入し、変形測度 \( D = \gamma_p + Q/k_{s0} \)(\( k_{s0} = p^{\mathsf T} K_{el}, p \) は弾性モード剛性)に対する履歴ばね \( Q = M(D) \) と壁の伝達水平力が一致するよう \( \gamma_p \) を定めます。接線剛性はせん断モードの剛性を保持し、非線形は内力側のすべり補正のみで表現します(初期剛性法。曲げ機構の形成後にせん断が \( Q_u \) から除荷へ向かう角点で、剛性を除去した整合接線では大域反復が特異化するため)。

ばねの骨格は弾完全塑性(初期剛性 \( k_{s0} \)、耐力 \( Q_u \)。トリリニアのひび割れ点は弾性線上 \( Q_u/3 \) に置きバイリニア相当、終局点は降伏変形の \( 10^4 \) 倍で降伏後フラット)とし、除荷・再載荷則は履歴則の設定(2.2.0)から解決します。既定は最大点指向型(増分・時刻歴共通。壁の面内せん断はひび割れのスリップ性状が強く、除荷開始剛性が初期剛性のままの移動硬化型ではループの吸収エネルギーを過大評価するため)です。逆行型・標準型・原点指向型・武田型も選択できます。

軸・曲げの非線形性(ファイバー壁柱)

保有水平耐力計算(増分解析)では、壁柱の軸・曲げを既定でファイバー断面の弾塑性評価とします(柱の Fiber 既定と同じ扱い)。壁柱は「全長弾性梁+端部塑性増分ヒンジ」のファイバー要素(4.9.2 ファイバーモデル)とし、断面は次で構成します。

  • コンクリート: 幅 \( t \) × せい \( l_w \) の格子ファイバー(幅 4 × せい 20 分割。\( f_c \le 60 \) で NewRC 構成則、超過で放物線モデル)。除荷則は部材ごとに増分用・時刻歴用を選択でき(2.2.0)、自動(未指定)の既定は増分解析=原点指向型(壁はロッキングに伴う中立軸移動で圧縮縁の除荷が本質的に生じ、逆行型では圧縮ブロックの応力が抜けず面内水平力の \( Q_u \) 頭打ちを超えてしまうため)、時刻歴応答解析=Karsan–Jirsa 型
  • 縦筋: 壁筋比 \( p_s \) を各せい方向層へ等価分散した鋼材ファイバー(各層 \( p_s \cdot t \cdot l_w / n_d \)、Menegotto–Pinto モデル・\( E = 205000 \) N/mm²、既定 SD345(\( \sigma_y = 345 \) N/mm²)。保有水平耐力計算では主筋の材料強度割増を適用)。断面形状に壁筋比の情報がない場合の既定は \( p_s = 0.0025 \)

弾性剛性の諸元(軸・面内曲げの鉄筋剛性係数、せん断の \( \kappa \)・開口低減)は上記の弾性壁柱と同一とし、塑性化域長は \( 0.5 , l_w \)(可撓長の 45% までにクランプ)とします。これにより細長壁の曲げ降伏・N–M 相関(軸力変動による曲げ耐力の変化)が表現されます。せん断の \( Q_u \) 頭打ちは上記のとおり併用し(すべりを差し引いた変位を壁柱へ与える直列構成)、曲げ・せん断のうち先に到達した方で耐力が頭打ちになります。

許容応力度計算(弾性解析)では、軸・曲げ・せん断とも線形弾性として扱います。

\( Q_u \) の等価引張鉄筋比 \( p_{te} = 100 a_t/(t_e d) \) に用いる \( a_t \) は、付帯柱(側柱)がある壁では引張側最端の柱 1 本の主筋量、付帯柱がない壁では壁の縦筋が一様配筋であるとみなした \( a_t = p_s t_e d \)(すなわち \( p_{te} = 100 p_s \) [%])とします。

\( Q_u \) の壁横筋の降伏強度 \( \sigma_{wh} \) は、断面の「せん断補強筋」欄に割り当てた材料の \( f_y \) を用います。材料が未割当のときは規格上の最小グレードである 295 N/mm²(SD295 相当) を既定とするため、\( Q_u \) は安全側に出ます。

材料の名称が高強度せん断補強筋(SD*SR* 以外の製品名)であれば、コンクリート項の係数を \( 0.053 \to 0.068 \)、分母を \( M/(QD)+0.12 \to \sqrt{M/(QD)+0.12} \) へ切り替えます(6.1 材料の許容応力度の高強度品の判定と同じ規則です)。

鋼板耐震壁の終局せん断強度

鋼板耐震壁の面内せん断は、鋼板のせん断降伏で頭打ちとします。降伏せん断応力度には von Mises の降伏条件による純せん断の値 \( \tau_y = F/\sqrt{3} \) を用い、これを全断面 \( t \cdot l_w \) に乗じます。\( F \) には材料の降伏強度を用います。

\[ Q_y = t \cdot l_w \cdot \frac{F}{\sqrt{3}} \]

せん断座屈は考慮していません。 幅厚比が大きく補剛のない鋼板は、せん断降伏に達する前に面外へせん断座屈して耐力が頭打ちになるため、本式は座屈が生じない鋼板を前提とした危険側の評価です。増分解析の実行時には、鋼板耐震壁の枚数とあわせてその旨を注意事項として表示します。

設定不備による停止

次の設定不備がある耐震壁は、保有水平耐力計算・非線形時刻歴応答解析をエラーで停止します(代替値で補わず、弾性としても扱いません。耐力が定まらない壁は際限なく水平力を負担し保有水平耐力を過大評価するためです。5.7 増分解析「解析前の入力チェック」)。

  • 壁エレメントとして構築できない(4 節点の指定がない、節点座標が退化している)
  • 断面が設定されていない、または壁厚が \( \le 0 \)
  • 材料が設定されていない

RC 壁では、これに加えて次を検出します。

  • 材料にコンクリート強度 \( F_c \) が設定されていない、または \( F_c \le 0 \)
  • 付帯柱があるのに、その断面から主筋量を取得できない(断面形状が RC 矩形でない、主筋の本数・径が 0)
  • 付帯柱がなく、かつ壁筋比 \( p_s \) が 0
  • 上記のいずれにも該当しないが \( Q_u \) の算定結果が \( \le 0 \) となる

鋼板耐震壁では、次を検出します。

  • 材料に降伏強度 \( F \) が設定されていない、または \( F \le 0 \)
  • \( Q_y \) の算定結果が \( \le 0 \) となる

質量

壁の質量は開口面積を控除し、開口部(サッシ等)の重量を加算した値とします(節点質量からの控除規約と揃えます。1.5 地震用重量・層データの生成)。

実装wall::wall_elementwall_element.rs)が算定します。 側柱は面内両端ピンとし、wall::side_column で回転自由度を静縮約します(許容応力度計算・保有水平耐力計算のいずれでも同じ扱いです)。側柱を面内ピンとするのは、面内せん断を壁エレメントが全部負担するモデルにおいて側柱にも面内曲げ・せん断を持たせると二重計上になるためで、壁の材種によらず適用します。側柱の断面をせん断断面へ算入するのは、その側柱がピン化される場合に限ります。 耐震壁の成立判定は wall::misc_wall::wall_is_seismic が担います。この判定は一次設計の耐震壁せん断検定(6. 一次設計)でも同じ関数を用いるため、解析でのモデル化と検定の対象範囲は必ず一致します。モデル化の確認ビューでも同じ判定を用いるため、図に耐震壁として描かれる壁と解析でせん断を負担する壁も一致します。

なお剛性計算用の開口低減率は \( r_1 = 1 - 1.25 \cdot r_0 \)(\( r_0 = \sqrt{h_0 l_0/(h , l_w)} \) は開口周比)であり、複数開口は建物一律の設定(等価開口/包絡/自動判定)で単一の等価開口に統合してから適用します。開口周比の分母には本モデルと同じ \( l_w \)・\( h \) を用います。 耐力用の開口低減率 \( r_2 = 1 - \max(r_0,\ l_0/l_w,\ h_0/h) \) とは別式であり混用しません(6. 一次設計8. 部材終局耐力参照)。