1.9 壁の断面と自重
本節では、壁版(WallPlate)が持つ断面と、そこから決まる板厚・自重、および壁版の入力に
ついて紹介します。
壁の入力の正は壁版です。 壁版は断面を持ち、板厚も材料も躯体の自重もここから決まります。 床(1.8 床の断面と自重)と同じく「符号を決めて割り当てる」形へ そろえることで、壁の諸元を探す先が断面 1 か所に定まります。 躯体以外の重さ(仕上げ・増打ち)だけは、厚さで表せないため壁版が面荷重として持ちます。
解析用の壁要素は壁版から都度生成するもので、モデルには保存しません。 どの壁版が壁要素になるか、そこでどう剛性を評価するかは 4.5 壁エレメントモデルを参照してください。 本節は、要素になるかどうかに依らず壁版が共通して持つ性質を扱います。
板厚と自重は断面から決まる
壁の板厚は、割り当てた断面の板厚をそのまま用います。 躯体の自重は板厚 \( t \)・開口を控除した正味面積・断面の主材料の密度から使うたびに算定し、 仕上げ・増打ちの面荷重 \( w_f \) と、開口部(サッシ等)の重量を入力していればそれらを加えます。
\[ W = (\rho \cdot t \cdot g + w_f) \cdot (A - A_{\text{開口}}) + W_{\text{開口部}} \]
自重を固定値で持たせないのは、そうすると板厚や材料を変えたときに自重が追随せず、断面と 重量が食い違ったモデルを作れてしまうためです。
面積 \( A \) は、壁が鉛直面内にあるとは限らないため、理想平面への投影を経由せずニューエルの 公式で 3 次元のまま求めます。 開口面積が壁の面積を超える場合は、正味面積を 0 とします。
仕上げ・増打ちは面荷重として入力する
コンクリートの壁には増打ちが伴い、外装の仕上げも無視できない重さを持ちます。 これらは板厚とは別に、面荷重 \( w_f \) として壁版へ与えます(入力は kN/m²)。 断面の板厚に足し込まないのは、打ち継ぎで一体性が保証されない増打ちや、そもそも構造材で ない仕上げを構造厚に含めると、剛性と耐力を過大に見積もることになるためです。
したがって仕上げ・増打ちは重さとしてのみ効きます。 壁の面内せん断剛性、雑壁として周辺の柱梁へ算入する剛性、耐震壁の断面検定、数量積算の コンクリート体積のいずれにも入りません。
面荷重は躯体と同じ正味面積(開口を控除した面積)に乗じます。 開口部にはコンクリートも仕上げもないためです。 開口周りの見込みや額縁の重さは開口部重量で見る場所が別にあるので、面積側で二重に見ません。
床板の仕上げ荷重(1.8 床の断面と自重)と同じ形の入力で、名称と 値を組にして持たせます。
算定した自重の行き先は、壁版が解析要素になるかどうかで変わります。 1.5 地震用重量・層データの生成と 1.6 自重の長期応力解析への接続を参照してください。
断面が未割当の壁は警告にとどまる
断面が未割当の壁版があるモデルは、準備計算の診断と解析前チェックが警告を出します。 板厚と材料が決まらないため躯体の自重を算定できず、解析要素にもしません。 ただし壁は柱・梁だけで解析が成立する要素であり、壁版が欠けても架構は解けるため、解析は 止めません。
仕上げ・増打ちの面荷重は断面に依らないため、断面が未割当でもそのまま計上します。 入力した重さを断面の有無で落とすと、警告を見落としたときに重量が黙って減るためです。
床は断面未割当をエラーで停止する点が異なります(1.8)。 床は必ず荷重を持つ面であり、断面が無いと長期荷重が過小なまま応力が出るためです。
既定の板厚やコンクリートのグレードで補うことはしません。 根拠のない数値で壁の重量を作ると、入力し忘れたことに気づけないまま設計が進みます。
壁版を作る
壁版はモデルタブの「壁版」で編集します。 一覧には囲まれた壁版・取り付く壁版の両方が並び、断面と、取り付く壁版の取付き先・立ち上がり 高さはその場で反映されます。 開口(開口面積または個別開口の寸法)・開口部重量・仕上げ・増打ちの面荷重・耐震スリットは、 対象の壁版を選んでフォームで入力し「適用」で反映します。
囲まれた壁版・取り付く壁版は、同じタブの追加フォームから作れます。 囲まれた壁版は境界 4 節点を反時計回りに指定します。 3D ビューアの壁作成モードでも、節点を 4 点選ぶと囲まれた壁版を追加し(開口面積・開口部重量 は 0)、その直後に壁領域へ結び付けるため、そのまま解析用の壁要素の対象になります。
断面に割り当てられるのは板厚を持つ断面だけです。 板厚のない断面を割り当てても自重も数量も算定できないため、選べないようにしています。
既定値は、断面が未割当、開口面積 0 mm²、個別開口なし、開口部重量 0 N、仕上げ・増打ちの 面荷重なし(名称の既定は「仕上げ」)、耐震スリットは 4 辺とも無しです。 個別開口を 1 つ以上入力すると、開口面積の入力値は無視され、個別開口の面積和を用います。
耐震スリット
耐震スリットは、壁と周辺の柱・梁との縁を切ったことを表す指定です。 スリットは辺ごとに入れるものなので、壁版の 4 辺それぞれについて独立に指定します。
| 納まり | 切れている辺 |
|---|---|
| 柱際のみ | 柱際 2 辺 |
| 三方スリット(垂れ壁型) | 柱際 2 辺 + 下辺 |
| 三方スリット(腰壁型) | 柱際 2 辺 + 上辺 |
| 完全スリット | 4 辺 |
三方スリット壁と垂れ壁は別物です。 垂れ壁は上の梁からぶら下がる短い壁で、下端に壁そのものがありません(取り付く壁版として入力します)。 一方、下辺にスリットを入れた壁は構面いっぱいの全高の壁で、下の梁と接してはいますが縁が切れています。 形が違うので、どちらか一方では表せません。
規則は 2 つです。 剛性は、切れていない辺の部材にだけ算入します。 柱際が切れていればその柱へ袖壁として算入せず、梁際が切れていればその梁へ腰壁・垂れ壁として算入しません (4.1 ティモシェンコ梁要素)。 剛域も同じ扱いで、切れている辺には壁による張り出しを与えません。 自重は、切れていない辺へ伝えます。 上下とも一体なら四隅へ等分し、下辺だけが切れていれば全量を上辺へ、上辺だけが切れていれば全量を下辺へ 寄せます(1.6 自重の長期応力解析への接続)。 柱際のスリットは自重の行き先を変えません。柱際の鉛直辺は壁の重量を受けないためです。
耐震壁として成立するのは、4 辺すべてが躯体と一体の壁だけです (4.5 壁エレメントモデル)。 切れた辺があると、壁が負担した面内せん断を周辺の柱梁へ伝えられないためです。
上下の梁際をともに切ることはできません
上下の梁際をともに切った壁は、自重の伝達先がありません。 柱際の鉛直辺は壁の重量を受けないため、上下とも縁が切れていると重量の行き場が無くなります。 実際に作らない納まりなので、解析前チェックがエラーで止めます。
スリットを指定する辺の指し方
左右のどちらを指すかは、境界のうち標高の低い 2 節点を境界の並び順に取った順で決まります。 一覧と入力欄には、その節点番号を添えて示します。 梁際は下辺・上辺として示します。
取り付く壁版(腰壁・垂れ壁・パラペット・自立壁)は柱・梁と接する 4 辺を持たないため、この指定は ありません。
スリットを指定できるのは、境界が 4 節点の壁版だけです。 境界が 5 節点以上の壁版(上下の大梁が中間節点で分割されている場合など)では、どの辺が柱際で どの辺が梁際かを決められないためです。 そのような壁版では入力欄を無効にし、指定が残っていれば準備計算の診断が警告します。
取り付く壁版の取付き先
取り付く壁版は、柱・梁が囲む壁領域に取り付く(線)か、床領域に取り付く(自立壁)かの どちらかの取付き先を持ちます。 取付き先の種別は作成時に決め、作成後に変える場合は削除して作り直します。
取付き線の区間の既定は全長 \( [0.0, 1.0] \) です。 張り出し量は取付き線からの鉛直方向の高さ差で、符号は上向きが正、下向き(垂れ壁)が負です。
自立壁の高さは階高いっぱいにできる
自立壁は、立ち上がり高さを数値で入れるかわりに「階高」を選べます。 階高を選んだ壁は、壁の下端から直上の階レベルまでを高さとします。 壁が載るレベルは下端線分の両端の平均標高とし、直上の階レベルはそれより 1 mm を超えて 高い階レベルのうち最も低いものです。 同じレベルの階はその壁が載っている床そのものなので、「上」とは数えません。
階高は設計を進めるあいだに何度も変わります。 全高の壁を絶対寸法で書くと階高の変更に追随せず、上階とのあいだに隙間が残りますが、 数値としては何も破綻しないため、その食い違いは気づかれないまま残ります。 高さの持ち主を階レベルに寄せることで、この食い違いが起きなくなります。
階高を選べるのは自立壁だけです。 柱・梁が囲む構面いっぱいの全高の壁は、囲まれた壁版として入力してください。 囲まれた壁版の高さは境界の節点、つまり周囲の柱梁が決めるので、そもそも高さを書く欄が ありません。 取付き線に取り付く壁版で階高を許すと、階高ぶんの腰壁せいがその 1 本の梁へ丸ごと算入され、 梁の剛性を過大に、変形を過小に見ることになります。
壁の下端より上に階レベルがないと高さが決まりません。 最上階の床に立つ壁がこれにあたり、解析前チェックがエラーで止めます。 パラペットのように最上階で上へ伸ばす壁は、上端を決める階がないので立ち上がり高さを数値で 指定してください。
床領域は主架構から作り直される派生的な入力で ID が振り直されるため、自立壁が荷重を渡す 床領域は保存せず、壁の位置から都度求めます。 床領域をまたぐ壁は境界で分割して配ります。 内包判定は辺上 1 mm 以内を内側とみなしません。 荷重を流せる床の上に載っていない壁は、自重の行き先がないため解析前チェックがエラーで 止めます。 未覆いが全重量の 0.1% 以下なら丸めとして無視します。
取り付く壁版への自動変換
ST-Bridge の取り込みと、準備計算での壁領域の付け直しでは、どの壁領域にも収まらない壁版の 一部を取り付く壁版へ自動変換します。 対象は、水平な辺(上辺または下辺)がちょうど 1 つ同一レベルの大梁に全長載り、かつ自由端が 1 点または 2 点の壁版です。 その辺を取付き線とし、区間は全長にします。
辺の全長を覆う判定のずれは 10 mm 以内です。 柱沿いの鉛直辺は判定の対象にしません。 大梁に載る水平な辺が 0 本または 2 本以上のとき、および自由端が 3 点以上のとき(折れ曲がり・ L 形など)は、囲まれた壁版のまま残し、警告を出します。
層の構面内に重心が入る腰壁・垂れ壁は、壁領域へ帰属した囲まれた壁版のまま残るため、この 自動変換の対象ではありません。 自立壁は ST-Bridge から判別できる情報源がないため自動検出せず、常に手入力です。
変換で不要になった自由端の節点は削除しますが、対象は部材・領域・版・拘束・節点荷重・支点・ 質量・剛床マスターのいずれからも参照されなくなった節点だけです。
ST-Bridge との対応
StbWall は境界節点ループと厚さ・材料から壁版として取り込み、柱・梁が囲む壁領域へ
付け直します。
書き出しは壁版から StbWall を出すため、境界が 4 節点でない壁版も往復します。
取り付く壁版は往復の対象外です。
仕上げ・増打ちの面荷重は ST-Bridge に対応する要素がないため、往復では保持されません。 取り込んだ壁版の面荷重は常に空になります。
実装
- 壁版:
squid_n_core::model::WallPlate - 自重算定:
squid_n_core::model::Model::wall_plate_self_weight(正味面積 ×〔板厚 × 密度 × 重力加速度 + 仕上げ・増打ちの面荷重〕) - 立ち上がり高さの解決(階高いっぱいの壁):
squid_n_core::model::Model::wall_plate_extent - 取り付く壁版の自重分配:
squid_n_load::wall_attached - 解析要素にならない壁版の自重分配:
squid_n_load::wall_plate_load - 取り付く壁版への自動変換:
squid_n_core::wall_region_rebuild - 診断(断面未割当・自重の行き先なし):
squid_n_solver::statics::analysis::precheck