準備計算(解析前の確認)
準備計算は、応力解析に先立って解析入力を確定させる計算です。解析を実行する前に 単独で実行でき、階の分布・剛域・断面性能・幅厚比・地震力(Ai 分布)・荷重の 集計を確認したうえで、各解析へ進めます。
準備計算は右パネル「① 準備計算」の「🛠 準備計算 実行」、または下ドック「準備計算」タブ内の 「▶ 準備計算 実行」で実行し、結果は下ドックの「準備計算」タブに表示されます。各解析 (荷重ケース・荷重組合せ)の実行時にも準備計算は自動的に最新化されるため、解析結果は常に 確認できる準備計算の内容に基づきます。
右パネルは、画面右端のアイコン列で切り替えます。一貫計算の手順は「① 準備計算」で 解析入力(地震力の算定諸元、部材のモデル化、計算条件、階の定義)を確定させ、続けて 静的解析・固有値・増分解析・時刻歴応答・質点系のいずれかを実行します。① の番号は準備計算の 見出しにだけ付け、各解析パネルは種類の名前で呼びます。
準備計算が確定させる内容
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 階(層)データ | 各階への節点の割り付け、階高、剛床(ダイアフラム)、階の地震用重量 Wi、主要構造種別 |
| 剛域 | 部材端の剛域長 λ・柱フェース距離(接続する直交部材のせいから算定) |
| ねじり解放 | 線材(梁・柱)の i 端ねじれをピンとするモデル化の適用可否(対象外部材の抽出) |
| 仕口パネル | S 造(CFT を除く)の柱梁接合部への仕口パネル要素の生成と、その寸法・せん断剛性 |
| 断面性能 | 弾性解析に用いる断面諸量(A・Iy・Iz・J・As)と使用部材数・断面が持つ材料 |
| 幅厚比 | 鋼断面の代表最大幅厚比と、それによる部材ランク(FA〜FD) |
| 部材剛性 | スラブ協力幅・合成梁・壁エレメント上下大梁による剛性の割増しと SRC/CFT 等価断面 |
| 床領域 | 水平な大梁の閉路ごとに床領域を作り直し、床板(版)と小梁の所属を入れ直す。既存の取り付く床板は残し、取付き線に直交して先端まで届く小梁または実梁の位置で支持部材の間の床板ごとに分割し、部材がない隣り合う床板は統合する。取り付く床板への変換で床板が参照しなくなった旧自由端の節点のうち構造参照のないものを削除する |
| 壁領域 | 鉛直構面内の柱・梁の閉領域ごとに壁領域を作り直し、壁版の所属を入れ直す。解析用の壁要素はモデルに残さず、剛域算定・自重・解析の直前に壁版から都度生成する |
| 床荷重・自重・積載 | スラブ荷重の梁への分配、躯体自重、用途別の積載荷重を標準荷重ケースへ集計 |
| 地震力(Ai 分布) | 設計用固有周期 T・Rt から αi・Ai・Ci・Qi・Pi を算定し、水平力を EX・EY へ生成 |
| モデル整合性チェック | 解析を妨げる不備(支点なし・断面の未割当・断面の材料の未割当・孤立節点など)の検出。下記「モデル整合性チェック」 |
階(層)データは剛域を除くすべての項目の前提です。階名・床レベル・階種別・地震用重量の 手入力は利用者が定めるデータであり、準備計算は書き換えません。準備計算が実行のたびに 算定し直すのは、各階への節点の割り付け・剛床・地震用重量の算定値・主要構造種別で、 節点・断面・荷重の変更がここへ反映されます。階への帰属の規則と、階が定義されていない モデルでの初期化については階の分布を参照してください。
床板割当領域の作り直しは準備計算のたびに毎回走ります。囲まれた床板(Slab)の境界は床板割当領域が保持し、 準備計算で大梁・小梁から割当領域を作り直します。同じ境界の領域は ID と割当を維持し、境界が変わった 領域だけが未設定になります。取り付く床板は残します。この作り直しは取り消し(undo)の対象では ありません。診断はモデルを書き換えず、いまの割当領域の状態を見ます。 準備計算のあとに診断を開くと、作り直し後の割当で警告が出ます。
一方、部材の追加・削除と節点座標の変更、二次部材の配置・移動・削除では、その編集と同じ Undo 単位で割当領域を作り直し、境界が変わって参照先を失った囲まれた床板・壁版を取り除きます (残すと「囲まれた版はちょうど 1 つの割当領域に属する」検証を満たせず解析が止まるため)。 編集を取り消せば版も戻ります。
未設定の割当領域の扱い
床板・壁版をまだ割り当てていない未設定の割当領域が残っていても、解析は実行できます。 入力途中で計算を試せるようにするためです。ただし未設定の領域は床荷重・躯体自重と壁の剛性が 解析に入らず、応力・変形を過小評価し得ます(危険側)。このため、GUI で解析を実行すると 計算前に未設定の件数と対象 ID(床板・壁版別)を示す確認ダイアログを出し、利用者が「続行して計算」を 選ぶまで計算を開始しません(続行を選んだ対象集合は、その集合が変わるまで再確認しません)。 結果画面には未設定の件数と対象 ID を常時表示し、レポートの CSV にも 「未設定の割当領域」セクションとして記載します。版なしは利用者が明示的に版を置かないと 決めた状態であり、未設定には含めません。
MCP 経由で解析した場合は、前処理の注意事項(notices)に同じ警告を含めます
(確認フラグは要求せず、警告を結果に添えて安全側の情報を残す扱いです)。
3D ビューでは、左パネル「作成」の「床板割当モード」「壁版割当モード」を ON にすると 割当領域を状態別の色(未設定=赤・版なし=灰・版あり=緑)で描き、クリックした領域で 割当・編集の画面を開きます。領域の作り直しと版の解除は同じく undo の対象外で、割当・版なし・ 未設定へ戻す操作だけが 1 つの Undo 単位です。
壁領域の作り直しも同じタイミングで走ります。壁版は柱・梁が囲む閉領域へ付け直し、どの壁領域にも 入らない壁版の一部は取り付く壁版へ自動変換します(条件は 壁の断面と自重)。解析用の壁要素は入力モデルには残しません。剛域の算定(壁を考慮する既定)・自重・ 応力解析は、その直前に壁版から組み立てた一時的なモデルを見ます。解析要素にするかは 壁エレメントモデル の条件で決まります。壁エレメントにならない壁版は正常な状態なので、診断には出しません。断面未割当の壁版だけは、板厚と材料が決まらず自重を算定できないため警告します。 取り付く壁版の自重は、取付き先が梁(線アンカー)なら取付き線への分布または両端の柱への 集中、取付き先が床領域(自立壁)なら壁が載っている床領域の床荷重へ等価な面荷重として、 それぞれ自動で分配します(地震用重量・層データの生成)。 自立壁が載る床領域は保存せず壁の位置から都度求めるため、床領域をまたぐ壁は境界で分割して配ります。未覆いが全重量の 0.1% を超える壁は診断がエラーで止めます。
地震力は荷重ケース EX・EY として確定するため、解析はこれらの荷重ケース および荷重組合せを解くことで行います(地震のための専用の解析入口はありません)。 荷重組合せは荷重ケース単体の解析結果の線形和として求めます (線形静解析)。
各項目の算定根拠は以下を参照してください。
- 地震力: 地震力
- 積載荷重: 積載荷重
- 床荷重の分配: 床荷重の分配
- 階の生成・地震用重量: 地震用重量・層データの生成
- 自重: 自重の長期応力解析への接続
- 剛域: ティモシェンコ梁要素
- ねじり解放: 部材のねじり剛性の既定モデル化
- 仕口パネル: 仕口パネル要素
- 断面性能: 断面諸量(弾性)・せん断有効断面積 As
- SRC/CFT 等価断面: SRC / CFT の等価断面性能
- 幅厚比・部材ランク: 部材ランク(FA〜FD)
実装参照:準備計算タブの実行は sepika_app::app::App::run_preparation(crates/sepika-app/src/app/preparation.rs)が担い、床領域・壁領域の作り直しと剛域・荷重の同期は sepika_app::app::App::sync_auto_load_cases_action(crates/sepika-app/src/app/actions/loads.rs)が行います。床板・壁版割当領域の作り直しは同 refresh_preparation が行います。GUI の解析実行時は sepika_app::app::App::ensure_preparation(crates/sepika-app/src/app/preparation.rs)が階の生成を除く前処理を通し、MCP の解析では sepika_job::prepare::prepare_model_for_analysis(crates/sepika-job/src/prepare.rs)が一括で通します。
モデル整合性チェック
準備計算はモデルの不備を検査し、結果を下ドックの「診断」タブへ重要度付きで一覧します。 対象を特定できる行はクリックすると 3D ビューでその部材・節点を選択するため、一覧から そのまま是正へ進めます。同じ不備が多数ある場合は対象 100 件までを個別に並べ、残りは 「…他 N 部材で〜」と 1 行へまとめます。
重要度は次の 3 段階です。
| 重要度 | 意味 |
|---|---|
| エラー | 解析を実行しても止まる不備。解析前に解消する |
| 警告 | 解析は通るが、結果が意図と異なるおそれがあるもの |
| 情報 | 気づきの提供。解析結果には影響しない |
エラーの判定は解析前の入力チェックと同一の実装を 共有しているため、診断がエラー 0 件であることと、入力チェックを通ることは常に一致します。 準備計算の要約が「✅ 整合性チェック: 問題なし」または警告のみであれば、そのまま解析へ進めます。 逆にエラーが出ている場合は、解析を実行しても同じ内容で止まります。違いは挙げ方だけで、 入力チェックが最初の 1 件で解析を止めるのに対し、診断は不備をすべて挙げるため、 何をいくつ直せばよいかを先に把握できます。
検査する内容は次のとおりです。
- 節点・部材の ID と配列添字の不一致、存在しない断面・材料への参照など、モデル検証で 見つかる不整合(エラー)
- 節点・部材・支点(拘束)が 1 つもない(エラー)
- 断面が必要な要素の断面が未割当、またはその断面に材料が未割当(エラー。別々に報告する)
- 配筋を持つ断面(RC 矩形・RC 円形・SRC 矩形)に主筋・せん断補強筋の材料が未割当、 SRC 断面に内蔵鉄骨の材料が未割当(エラー。断面を使う部材を名指しする)
- シェル要素の断面に板厚がない(エラー)
- 線材の有効せん断断面積 As が 0(エラー)
- 材料由来の等価断面性能を算定できない SRC/CFT 断面を使う部材(警告。Fc が正の有限値で、SRC はヤング係数または密度、CFT は鋼管ヤング係数または充填部の内法が不成立のとき。この間は SRC は N_S_EQ=15 の鉄骨等価換算、CFT は充填コンクリートを無視した鋼管のみで剛性を評価する。Fc 未設定・0 以下・非有限値は入力不備としてエラーにし、フォールバックしない)
- 耐震壁と周辺架構の構造種別の食い違い(エラー)
- 断面が未割当の床、断面の材料または板厚が定まらない床(エラー。床の自重が 算定できないため。床の断面と自重)
- 載荷区間が材長を超える部材荷重(エラー。等価節点力の積分が材の外まで及び、節点力と 固定端内力が誤るため。階への複製)
- 階名の重複(エラー。階名は階の一覧・CSV の列見出しと断面の符号+階に使われ、 同じ名前の階が 2 つあるとどの階の値なのかを判別できないため。前後の空白しか違わない 名前も同名として扱う。階の分布)
- 存在しない節点への参照、およびどの部材にも接続されていない節点(エラー)
- 基部以外の階で、剛床マスター節点が水平方向(Ux または Uy)に拘束され、かつその階の地震用重量が正のとき(エラー)
- 剛床(ダイアフラム)のない階(警告。階名を挙げる)
- 空の水平力ケース(地震・風)を参照する荷重組合せ(警告)
- 節点を共有せずに交差する水平大梁(警告。床領域の閉路検出が実際の床領域とずれるため)
- 同じ位置に重なった同種の支持部材(エラー。主架構どうし(大梁・柱)、または二次部材どうし(小梁・間柱)が同一材軸上で重なっている。どちらが荷重を受けるか一意に決まらないため止める。異種(主架構と二次部材)の重なりは主架構優先で許容する。重複した部材を削除するか、材軸を分ける)
- どの床領域にも載らない囲まれた床板(警告。重心がどの大梁の閉路にも入らない版あり床板。解析は止めない)
- 断面未割当の壁版(警告。板厚と材料が決まらず自重を算定できない。解析要素にもしない。解析は止めない)
- 耐震スリットの指定が効かない壁版(警告。境界が 4 節点でない、または境界頂点にモデル節点が無い等で辺が柱際か梁際かを決められず、指定を無視する。解析は止めない。指定を外すか、境界が 4 節点で頂点にモデル節点がある壁版にする)
- 上下の梁際をともに切った壁版(エラー。境界が 4 節点の囲まれた壁版が対象。この納まりは実際に想定しないため、負担率の指定内容や柱際の状態によらず入力の誤りとして一律に止める。切れていない辺へ振り替えない。いずれかの梁際のスリットを外す)
- 自重の行き先が決まらない壁版(エラー。境界辺への自重負担率が未指定・不正、正の負担率の辺がスリットで縁切り、または壁版割当領域の境界に材軸を解決できる支持部材(柱・梁・間柱)が無い囲まれた壁版。支持先は壁版割当領域の境界を正本とし、節点座標から支持辺を再推定するフォールバックは行わず、別の辺へ振り替えない。境界が参照する支持部材が実在し、種別が適合し、材軸を解決でき、材端節点が 2 つであることは
Model::validateが確認する前提である。行き先のない節点荷重は解析の自由度から外れ、荷重の一覧には見えるのに解析からは消えるため止める) - どの床領域にも所属しない小梁・どの壁領域にも所属しない間柱(エラー。所属が決まらないと荷重の行き先も断面検定の可否も決められないため止める)
- 二次部材(小梁・間柱)に CFT 断面が割り当てられている(エラー。CFT は柱専用で二次部材には使用できない。二次部材の自重式が充填コンクリートを扱わないため、割り当てると充填分の自重が欠落して危険側になる。断面を鋼材または RC に変更する)
FrameSectionUse::Column以外の主架構断面、または未参照断面に CFT が指定されている(エラー。CFT は柱用途専用。編集コマンドでの作成・割当を拒否し、既存データは解析前チェックで停止する。Beam・Fiber・MultiSpringの主架構線材で Column 用途を持つ場合に限り許可する)- 床板・壁版に CFT 断面が割り当てられている(エラー。対象の床板・壁版 ID と件数を示す。CFT は柱専用のため、床板・壁版の断面を RC または鋼材へ変更する)
- CFT 柱の
Section.steel_materialが未設定・不正、または鋼種名と実板厚/正の有限値fyから F 値を解決できない(エラー。CFT では F=235 の無音補完を行わない) - 荷重を流せる床の上に載っていない自立壁(エラー。自重の行き先がないため止める。壁を床領域の内側へ移すか、床板を割り当てるか、取付き先を梁の線アンカーへ変える。床領域境界の辺上 1 mm 以内は内側とみなさない。未覆いが壁の全重量の 0.1% 以下なら丸めとして無視する)
- 荷重が定義されていない荷重ケース(情報)
剛床のない階が警告にとどまるのは、その階の水平力を階に属する節点へ質量比で直接分配して 解析を続けられるためです(地震力)。 剛床として扱うつもりの階でこの警告が出た場合は、床が張られているかを確かめてから 準備計算を実行し直してください。
基部以外で剛床マスターが水平拘束されている検査は、地震力が拘束自由度へ入って消えることを止めるためのものです。 床面に柱や大梁が取り付いていれば、マスターは水平に動ける判定になるため、このエラーは出ません。 地震用重量が 0 の階は、消える水平力も 0 であるため対象外です。
準備計算を実行するたびに診断をやり直すため、診断タブを開いていなくても件数は最新です。
先頭のモデル検証はデータの破損を見る検査で、プロジェクトファイルや ST-Bridge の 読み込み時にも同じ検証を通しているため、通常の操作では出ません。これが出た場合は モデルの参照関係そのものが壊れており、以降の検査は別の実体を指した結果を報告しかねない ため、モデル検証のエラーが出ている間は他の項目を検査せず、この 1 件だけを表示します。 表示された不整合を直せないときは、直前の編集を取り消すか、保存済みのプロジェクトファイルを 開き直してください。
仕口パネル・節点バネ・免震支承材・制振ダンパーは、断面ではなく専用の特性値から 剛性を作るため、断面と材料の未割当は検査しません (仕口パネル)。
実装参照:検査の本体は sepika_solver::statics::analysis::precheck::model_issues(crates/sepika-solver/src/statics/analysis/precheck.rs)にあり、解析前チェックと GUI の診断(sepika_app::app::App::run_diagnostics、crates/sepika-app/src/app/actions/mod.rs)が同じ判定を共有します。GUI は壁展開モデル(sepika_load::wall_expand::expand_wall_elements)へ model_issues を適用し、対象のクリック選択は ModelIssue が持つ IssueTargets で 3D ビューと結び付けます。
この章の内容
準備計算タブに表示される内容を、項目ごとに次のページで説明します。