部材履歴則の設定と集中ばね履歴則
この節は、部材履歴則の設定(増分用・時刻歴用の 2 系統)と、集中ばね (one/two-component)用の M–θ 履歴則を扱います。 スケルトンは crack/yield/ultimate の 3 点で与えるトリリニア(またはバイリニア)とし、除荷則はモデルごとに異なります。
履歴則の設定(増分用・時刻歴用)
部材の履歴則は、増分解析(保有水平耐力計算)用と時刻歴応答解析用を 部材ごとに別々に指定できます。時刻歴用が「増分と同じ」(未指定)の部材は 増分用の指定に従います。どちらも未指定(自動)の部材は、要素種別ごとの 次の既定に従います。
| 要素 | 履歴則の適用先 | 自動(増分) | 自動(時刻歴) |
|---|---|---|---|
| 梁(材端集中ばね) | 材端曲げばねの M–θ 履歴 | RC/SRC/CFT: 武田型 S: 標準型 | 増分と同じ |
| 柱等のファイバー要素・MS 要素 | コンクリートファイバの除荷則 | 逆行型 | Karsan–Jirsa 型 |
| 耐震壁 | 面内せん断ばねの Q–δ 履歴(壁エレメントモデル(耐震壁)) +壁柱ファイバーのコンクリート除荷則 | せん断: 最大点指向型 コンクリート: 原点指向型 | せん断: 最大点指向型 コンクリート: Karsan–Jirsa 型 |
- ファイバー要素・MS 要素・耐震壁では、履歴則の指定をコンクリートの除荷則 として解釈します。有効な指定は逆行型・原点指向型・Karsan–Jirsa 型(コンクリート繰返し履歴モデル(Karsan–Jirsa 除荷))で、 それ以外(武田型等の曲げばね用履歴)を指定した場合は自動と同じ既定に従います。 鋼材・主筋ファイバは常に Menegotto–Pinto(Menegotto–Pinto 鋼材・鉄筋モデル)で、選択の対象外です。
- 梁(材端集中ばね)に Karsan–Jirsa 型(M–θ 履歴でない指定)を与えた場合は 武田型として扱います。
- 耐震壁では、履歴則の指定を面内せん断ばね(Q–δ 系として解釈できる指定: 逆行型・標準型・原点指向型・最大点指向型・武田型)と壁柱ファイバーの コンクリート除荷則(逆行型・原点指向型・Karsan–Jirsa 型)のそれぞれへ、 解釈できる範囲で適用します。どちらとしても解釈できない指定は各既定に従います。 せん断ばねの既定を最大点指向型とするのは、壁の面内せん断はひび割れの スリップ性状が強く、除荷開始剛性が初期剛性のままの移動硬化型(Masing)では 履歴ループの吸収エネルギーを過大評価するためです(壁エレメントモデル(耐震壁))。
- 増分解析のファイバー既定を逆行型とするのは、単調載荷が主体で骨格追従が目的の ためです。耐震壁の壁柱のみ原点指向型を既定とします(壁はロッキングに伴う 中立軸移動で圧縮縁の除荷が本質的に生じ、逆行型では圧縮ブロックの応力が 抜けずに曲げ寄与を過大評価し、面内水平力の終局せん断強度 Qu 頭打ちを 超えてしまうため)。
- 時刻歴応答解析のファイバー既定を Karsan–Jirsa 型とするのは、残留塑性ひずみ・ ひび割れ開閉・剛性劣化を含む履歴(コンクリート繰返し履歴モデル(Karsan–Jirsa 除荷))により、繰返し載荷の履歴吸収 エネルギーの評価が原点指向型より現実的なためです。
実装参照:sepika_core::model::{default_member_hysteresis, default_fiber_concrete_hysteresis}(crates/sepika-core/src/model/hysteresis.rs)が材端集中ばね・ファイバーの既定を定め、材端集中ばねの指定(増分用・時刻歴用の 2 系統)の解決は sepika_element::factory::resolve_member_hysteresis(crates/sepika-element/src/factory/springs.rs)が行います。
履歴モデル一覧
各履歴モデルは、構造動力学で標準的に用いられる復元力特性モデルに基づきます。
武田モデル(Takeda, Sozen and Nielsen, 1970)、最大点指向型(Clough 系)、原点指向型、標準型、逆行型(Retrograde)、辻・山田モデル(TsujiYamada)、鉄骨横座屈型(SteelBuckling)を実装します。
選択肢は sepika_core::model::HysteresisModel が列挙します。
算定式(各モデルの除荷則):
- 武田モデル(Takeda): 剛性低下型トリリニア。除荷剛性は \( K_u = K_0 \cdot |\delta_{\max}/\delta_y|^{-\alpha} \)(K0 = ひび割れ勾配 \( M_c/\theta_c \)、α = 除荷剛性低下指数)。
- 原点指向型(OriginOriented): バイリニアで、除荷は原点へ向かう割線とします。
- 逆行型(Retrograde): 常にスケルトン上を辿り、履歴ループを持ちません。
- 標準型(Standard): 材端集中ばね(S 造の既定)では線形移動硬化(バイリニア鋼材(線形移動硬化)、降伏後剛性比 0.01)とし、耐震壁の面内せん断ばねでは Masing 則(相似則)により除荷し、除荷開始剛性を初期剛性 K1 とします。
- 最大点指向型(MaxPointOriented): Clough 系のピーク指向とします。
トリリニア・バイリニアのスケルトンは、終局超過後は軟化せず終局耐力を保持します。
実装参照:sepika_material::hysteresis::HysteresisRule(crates/sepika-material/src/hysteresis/mod.rs)が算定します。ただし材端集中ばねの標準型(線形移動硬化)は sepika_element::factory::springs::build_flexural_springs(crates/sepika-element/src/factory/springs.rs)が sepika_material::uniaxial::Bilinear で構築します。
武田の除荷剛性は同モジュールの unloading_stiffness で「原典式 \( K_d^+ = K_0 \cdot |\delta_{\max}/\delta_{y2}|^{-\nu} \)」と明記しています。
確定点の再評価と初期接線
武田型、最大点指向型、原点指向型、標準型、逆行型と鉄骨横座屈型では、確定した変形と同じ変形を再評価・確定しても、力・接線・載荷方向・反転点・経験最大点を保持します。変形差の厳密なゼロを対象とし、正負のゼロを同じ点として扱います。有限の非ゼロ微小変形は載荷増分として評価します。
生成直後の原点では、力は0、接線は各骨格の初期剛性です。試行を取り消した場合は確定状態へ戻ります。応答の照会だけでは、別の変形で試行中の状態を変更しません。
正負非対称の壁せん断履歴
壁せん断ばねには正側・負側それぞれの包絡線を指定します。両側の履歴則の種類と初期剛性は同一とし、降伏耐力と降伏変位を別々に与えます。一般の HysteresisMaterial::new は正負対称が既定で、with_negative_rule により負側を明示します。
包絡線・未経験側の目標点・降伏判定には評価方向の諸元を使い、最大経験点は正負別に記録します。内側ループが反対側の目標点へ到達した場合は再載荷枝へ、さらに最大経験点へ到達した場合は包絡線へ戻ります。標準型の反転枝は、進行方向の降伏耐力Qdirに対して相似倍率c=(Qu正+Qu負)/Qdirを用います。対称時はc=2です。包絡線への再合流変位は、反転変位の絶対値を両側の降伏変位比で換算します。実装は sepika-material/src/hysteresis/material.rs です。
辻・山田モデル(混合硬化)
このモデルは、辻・山田による混合硬化則(バイリニア骨格に β による等方硬化と移動硬化を組み合わせる弾塑性モデル)に基づきます(二重鋼管座屈補剛ブレース等に適用)。
算定式
硬化係数:
\[ H = \frac{K_1 \cdot K_2}{K_1 - K_2} \]
降伏時の移動硬化:
\[ \Delta\bar{\alpha} = (1-\beta) \cdot H \cdot \Delta\varepsilon_p \]
降伏時の等方硬化:
\[ \Delta\bar{\sigma} = \beta \cdot H \cdot \Delta\varepsilon_p \]
\( \beta = 1 \) で等方硬化、\( \beta = 0 \) で移動硬化となります。
実装参照:sepika_material::hysteresis::TsujiYamada(crates/sepika-material/src/hysteresis/tsuji_yamada.rs)が算定します。
鋼梁 横座屈考慮 Mu/Mp 比
この算定は、井戸田ほか (2015) による、横座屈を考慮した鉄骨梁の耐力比 Mu/Mp 評価式に基づきます。
算定式: 細長比 λb・κ(両端モーメント比)から \( M_u/M_p \) を算定します(qκ・r・αΛ・Λc' などの多段の閉形式。結果は [0.05, 5.0] にクランプします)。
原典既定は 残留応力 \( c_{\text{res}} = 0 \)、形状係数 \( f = 1 \)、\( k_{\text{res}} = 0.3 \)、\( k_{\text{def}} = 1.0 \) です。
実装参照:sepika_material::hysteresis::lateral_buckling_mu_ratio(crates/sepika-material/src/hysteresis/steel_buckling.rs)が算定します。
除荷は孟・大井・高梨の Ramberg–Osgood モデル(\( \gamma = 5,\ \Phi = 0.5 \))を同ファイルの SteelBuckling で実装しています。
解析骨格と断面表示
材端集中ばねの解析骨格は、初期剛性と降伏時剛性低下率による総変形を評価します。 せん断・鉄筋抜出しによる部材角を別途加算しません。 RC梁の材端集中ばねで採用する骨格と適用条件を説明します。 ファイバー解析要素は要素の断面積分を用います。 断面詳細のM–N相関曲面は弾完全塑性ファイバーによる参考表示であり、ヒンジ詳細には実際の解析骨格を表示します。
実装参照:sepika_element::factory::springs(crates/sepika-element/src/factory/springs.rs)が材端集中ばねを構築します。