5.7 増分解析(プッシュオーバー解析)
保有水平耐力を求めるため、漸増静的(プッシュオーバー)解析を行います。画面上の表記は「増分解析」です。 外力分布は Ai 分布(1. 荷重)とし、荷重制御から変位制御へと段階的に制御を切替えます。
終了目標
変位増分をどこまで押し込むかは、次の 2 つの終了目標で指定します。それぞれ独立に有効・無効を切替えられ、有効な目標のいずれかに最初に達した時点で解析を打ち切ります。
| 目標 | 内容 | 既定 |
|---|---|---|
| 目標層間変形角 | 全層の最大層間変形角(\( \max_i |\delta_i| / h_i \)、\( h_i \) は階高=階標高の隣接差分)が指定値(1/n)に達したら終了 | 有効(1/150) |
| 目標変位 | 頂部(最上階の代表節点)の加力方向変位が指定値 [mm] に達したら終了 | 無効 |
両方を無効にした場合は荷重制御(λ=1、設計地震力レベル)までで終了します。 変位制御フェーズの押込み上限は、目標変位はその値を、目標層間変形角は「全層が一様に目標角へ達した場合の頂部変位」=目標角 × Σ階高を用います(最大層間変形角は平均層間変形角=頂部変位/Σ階高 以上であるため、上限到達までに必ず判定が成立します)。
終了目標の判定は、水平力を載荷するフェーズ(荷重制御・変位制御)すべてで行います。 あるフェーズで目標に達した場合、以降のフェーズへは移行しません。 長期荷重の初期載荷(λ=0)は水平力に対する応答ではないため、判定の対象外です。
増分の刻み(均等変位刻み制御)
段階制御では、性能曲線の点間隔(頂部変位軸)が全域で概ね均等になるよう増分を刻みます。 目標刻みを du =(押込み上限)/(ステップ数設定)とし、次の規則で増分を決めます。
- 荷重制御: λ 増分を「頂部変位が du 進む見込みの量」に適応させます。増分は直近の確定ステップ間の荷重−変位勾配(初回は初期接線剛性による弾性勾配)から求めます。剛性が変化しない弾性域は粗い λ 刻みで足り、降伏が進み勾配が増すほど刻みは自動的に細かくなります。
- 変位制御: 同じ du を頂部変位の押込み刻みに用います。
弾性勾配を推定できない場合は、荷重制御を等分割 λ 刻み(1/ステップ数)、変位制御を 10 分割とする固定刻みで解析します。 増分方式「荷重増分のみ」は常に等分割の λ 刻みです。
算定式
外力は q[a] += dir·share(Ai 分布。載荷先は1.1 地震力の「Pi の載荷先」に同じ)とし、周期は略算式によります(\( C_0 = 0.2 \), \( Z = 1.0 \), 第2種地盤):
\[ T = h(0.02 + 0.01\alpha) \]
Newton 反復は次とし(幾何剛性オプション use_kg、1 ステップあたり最大 50 回)、収束を \( \|r\| < 10^{-6} \cdot \max(\|f_{\text{ext}}\|, 1) \) で判定します:
\[ K_t \cdot \delta u = f_{\text{ext}} - f_{\text{int}} \]
保有水平耐力は次とします:
\[ Q_u = \text{性能曲線上の最大ベースシア} \]
接線剛性が特異・非正定値になったときの扱い
弾塑性の接線剛性 \( K_t \) は、降伏の進行(崩壊機構の形成・耐力劣化)によって正定値性を失うことがあります。増分解析はこれを増分が大きすぎるときの非収束と同じ扱いとし、全フェーズ(長期荷重の初期載荷・荷重制御・変位制御)で共通に次の順で対処します。
- 確定済みの状態から増分を半減して解き直す(最大 5 回。確定 λ・確定頂部変位を基点とした増分のみを縮めるため、単調載荷が保たれます)。
- それでも進めない場合はそのフェーズを打ち切り、次のフェーズ(荷重制御 → 変位制御)へ引き継ぐ。極限点近傍は変位制御の方が安定に追えるためです。
- 1 ステップも確定できなかった場合のみ、原因を切り分けたメッセージでエラー停止する(性能曲線が空の結果を「解析できた」として返すと、保有水平耐力を 0 と誤認させるためです)。
終了理由の記録
解析がどのように終了したか(終了目標へ到達/荷重係数上限まで載荷/押込みスケジュール完了/非収束による打ち切り/接線剛性の特異化による打ち切り)を結果へ記録します。目標へ到達しないまま非収束・特異化で打ち切られた場合、性能曲線は途中で途切れており \( Q_u \)(=性能曲線上の最大ベースシア)はその時点までの最大値です。結果画面はこの場合に警告を表示します(過小評価の可能性があるため、増分ステップ数の増加やモデルの見直しを検討してください)。
解析開始前の初期接線剛性チェック:初期(未変形・未降伏)の接線剛性を一度分解し、失敗した場合は増分を刻む前にエラー停止します。初めから特異なモデルは増分をいくら刻んでも解けないため、剛性がゼロの自由度を節点 ID と自由度成分で名指しして停止します(例: 梁だけが一直線に並ぶ節点のねじれ回転)。分解できるが対角が負の自由度がある場合は耐力劣化・機構形成として、いずれも該当しない場合は拘束不足・機構の可能性として案内します。
自由度を名指しする診断は、拘束(剛床・剛リンク・MPC)を縮約した後の接線剛性 \( K_r = T^\top K T \)(=実際に分解する行列)の対角で判定します。名指しの対象は縮約後に独立自由度として残るものだけなので、剛床・剛リンク・MPC のスレーブ自由度は挙がりません。
長期荷重の初期載荷
水平力の増分に先立ち、長期系荷重ケース(固定・積載等)の外力を載荷し、その応力状態(柱軸力・梁端モーメント)を初期条件とします。 長期応力を初期状態とすることで、軸力に依存する部材耐力(柱の曲げ降伏 \( M_y \)・せん断降伏 \( Q_y \) の軸力項、ファイバー断面の N–M 相関)が長期軸力を含んだ状態で評価されます。 長期荷重は全フェーズを通じて外力 \( f_0 + \lambda \boldsymbol{q} \) の \( f_0 \) として保持され、載荷完了状態は荷重係数 λ=0 の 1 ステップとして記録されます(ヒンジ詳細図の N-M 応答経路の始点)。 初期載荷は右パネル「増分解析」で無効化でき、長期系荷重ケースがないモデルでは何も行いません。
制御方式の切替(荷重制御 → 変位制御)
2 つの制御方式には、それぞれ釣合い経路を安定して辿れる領域があります。 増分解析は、経路の進行に合わせて有効な方式へ乗り換えることで、崩壊機構の形成域まで解析を進めます。
- 荷重制御(λ を 0 → 1 へ増分): 構造が十分に硬い序盤。λ=1 は \( C_0 = 0.2 \) の設計地震力レベル
- 変位制御(頂部変位を増分し λ を解く): 耐力ピーク(崩壊機構形成)の前後
荷重制御は、荷重を入力とするため耐力のピーク(極限点)を越えられません。 ピークを越えた大きさの荷重には、釣合う解がそもそも存在しないためです。
ですが、保有水平耐力の判定水準はこのピーク近傍にあります。 必要保有水平耐力 \( Q_{un} = D_s \cdot F_{es} \cdot Q_{ud} \) の \( Q_{ud} \) は標準せん断力係数 \( C_0 = 1.0 \)(大地震レベル)で算定するため、増分解析の λ に換算すると \( 5 D_s F_{es} \)、\( D_s \) が下限の 0.25 でも λ≒1.25 に相当します。 そのため、λ=1 で終わる荷重制御だけでは判定に必要な耐力域へ届きません。
また、建物が保持できない大きさの荷重を与えても、釣合い解が存在せず反復が収束しないだけで、「どこまで保持できたか=\( Q_u \)」の情報は得られません。 一方、頂部変位は崩壊機構形成の前後を通じて単調に増え続けます。 そのため、変位をパラメータに取る変位制御へ切替えることで、耐力の頭打ちと低下を釣合い経路上の応答として観測でき、\( Q_u \) をピーク値として確定できます。 健全な建物であれば、変位制御の区間でも λ は単調に増加し、荷重の低下はヒンジ形成による剛性低下が生じてはじめて現れます。
なお、頂部変位そのものが経路上で一時的に戻るスナップバックだけは、変位制御でも追えません。 その受け皿として弧長法(荷重と変位の両方を未知数のまま経路の弧長で増分する方式)を実装していますが、現在は選択できません。 実建物の規模のモデルで釣合い反復が収束しないため、有効化の導線を設けていません。 そのため現在の解析は、荷重制御と変位制御の 2 段で構成されます。
増分方式の選択(比較検証用)
増分方式は、既定の段階制御のほかに「荷重増分のみ」を選択できます(右パネル「増分解析」)。 荷重増分のみでは変位制御へ移行せず、終了目標が有効な場合は λ=1 を超えて同じ刻み dλ のまま荷重増分を継続します。 増分を半減しても収束しなくなった時点で解析を打ち切ります。 これ以上の荷重に釣合う解がない、すなわち耐力ピーク近傍に達したことを意味するためです。
荷重を入力とするため、この方式では耐力の頭打ち・低下域は追跡できません。 段階制御との結果の違い(どの λ まで釣合いが取れるか、変位制御が結果に与える影響)を確認する用途を想定しています。 保有水平耐力の判定に用いる結果は、崩壊機構の形成まで追跡できる段階制御(既定)で求めてください。 結果画面と CSV には、どちらの方式で得られた結果かを表示します。
変位制御が仮定するもの・しないもの
変位制御と聞くと、「λ=1 時点の変形形状を拡大していくため、ヒンジ発生による変形形態の変化を表現できないのではないか」という疑問が生じるかもしれません。 ですが、変位制御が拘束するのは頂部(最上階の代表節点)の加力方向変位という 1 自由度だけで、変形の形状は仮定しません。 残りの全自由度は、その時点の接線剛性(ヒンジによる剛性低下を反映した剛性)と外力 λ·q に対する釣合いから解かれます。 そのため、たとえば特定の層の柱にヒンジが入って層崩壊形へ向かう場合、同じ頂部変位の増分でも、その内訳は軟化した層の層間変位へ自動的に集中します。 この変形集中は、結果画面の層別の Q-δ 曲線(層間変位−層せん断力)で確認できます。
一方、固定しているのは外力の分布形状 q(Ai 分布)で、全フェーズを通じて λ でスケールするだけです。 ヒンジ形成により振動特性が変わると実際の地震時の慣性力分布も変わり得ますが、これには追随しません。 これは静的漸増載荷(プッシュオーバー)解析に共通の近似で、告示の保有水平耐力計算も Ai 分布による静的載荷を前提としています。
解析前の入力チェック
増分解析は、部材の終局耐力(曲げ降伏 \( M_y \)、せん断終局 \( Q_{su} \)、耐震壁の \( Q_u \))で応力を頭打ちにすることで崩壊機構を形成します。耐力を算定できない部材は弾性のまま・降伏しないまま扱われ、押し込むほど際限なく応力を負担するため、崩壊機構が形成されず保有水平耐力を過大評価します(危険側)。
そのため、次の入力不足があるモデルは、既定値で補わずに解析をエラーで停止し、該当する部材 ID と是正内容を表示します。
| 対象 | 停止条件 |
|---|---|
| 耐震壁(壁エレメント) | 終局せん断強度 \( Q_u \) を算定できない(下記の一覧) |
| 線材(梁・柱・ファイバー・マルチスプリング) | 断面に材料が割り当てられていない |
| 同上 | 主材料の区分が鉄筋(2.5 構造種別の判定。線材の主材料には鋼材かコンクリートを割り当てます) |
| 同上(配筋を持つ断面: RC 矩形・RC 円形) | 主材料の区分が鋼材(鋼材として検定すると耐力を大きく過大評価します) |
| 同上(コンクリート系断面: RC・SRC・CFT) | 主材料にコンクリート強度 \( F_c \) が設定されていない、または \( F_c \le 0 \) |
| 同上(配筋を持つ断面: RC 矩形・RC 円形・SRC 矩形) | 主筋の材料が未割当、またはその材料に正の \( f_y \) がない |
| 同上(鋼材断面形状: 形鋼・鋼管など) | 鋼材の降伏強度 \( f_y \) を解決できない(SRC は内蔵鉄骨の材料、その他は主材料。ファイバー断面は鋼材の降伏進展を追うため必須) |
| 同上(断面形状が未設定) | 主材料に正のコンクリート強度 \( F_c \) も正の降伏強度 \( f_y \) も設定されていない(\( F_c \) があればコンクリート、なければ鋼材のファイバとして組み立てるため、使われる側の強度が必要) |
| 全部材(線材) | 断面の有効せん断断面積 \( A_s \) が 0(3.3 せん断有効断面積 As。全解析共通の入力チェック) |
\( F_c \le 0 \)・\( f_y \le 0 \) のような 0 以下の値は、未設定と同じ「耐力を算定できない」入力として扱います。
耐震壁で耐力を算定できないのは次の場合です。材種によらず次を検出します。
- 壁エレメントとして構築できない(4 節点の指定がない、節点座標が退化している)
- 断面が設定されていない、または壁厚が \( \le 0 \)
- 断面に材料が割り当てられていない
RC 壁では、これに加えて次を検出します。
- 材料にコンクリート強度 \( F_c \) が設定されていない、または \( F_c \le 0 \)
- 付帯柱(側柱)があるのに、その断面から主筋量を取得できない(断面形状が RC 矩形でない、主筋の本数・径が 0)
- 付帯柱がなく、かつ壁筋比 \( p_s \) が 0
- 上記のいずれにも該当しないが \( Q_u \) の算定結果が \( \le 0 \) となる(寸法・開口の入力を確認してください)
鋼板耐震壁では、次を検出します。
- 材料に降伏強度 \( F \) が設定されていない、または \( F \le 0 \)
- \( Q_y \) の算定結果が \( \le 0 \) となる(板厚・壁長さの入力を確認してください)
同じチェックは非線形時刻歴応答解析にも適用します(耐力が定まらない部材を弾性のまま解析すると応答を過小評価するためです)。許容応力度計算(線形弾性解析)は部材耐力を用いないため対象外です。
実装:squid_n_element::factory::{nonlinear_input_issues, ensure_nonlinear_input} が判定し、crates/squid-n-solver/src/nonlinear/pushover/driver.rs と crates/squid-n-solver/src/dynamic/timehistory/nonlinear.rs が解析の冒頭で呼び出します。
材料強度(割増)
保有水平耐力計算の材料強度として、降伏強度に次の割増係数を乗じます (H12 建告第2464号の運用・各認定条件)。
| 用途 | 割増係数 |
|---|---|
鋼材(材料名から鋼材グレードを解決できる材料。SS400・SN490B 等) | 1.1 |
| 鋼材のうち 590N 級(SA440・TMCP440) | 1.05 |
| RC 主筋(材質・fy 未設定時の既定値 345 N/mm² にも適用) | 1.1 |
| せん断補強筋 | 割増しない |
| 名称から解決できない直接入力材料 | 割増しない(下記の直接入力で指定可) |
- 材料ごとに割増係数を直接入力でき(材料タブの「割増」欄)、入力がある場合は 自動判定より優先してその値を用います。直接入力材料に割増を適用したい場合に指定します。
- 割増はプッシュオーバー解析(部材の集中ばね・ファイバーの組み立て、 曲げヒンジ・せん断降伏の判定閾値)にのみ適用し、許容応力度計算(一次設計)・ 時刻歴応答解析には適用しません。
実装:nonlinear::pushover(pushover/mod.rs::pushover_analysis_recording)が算定します。
材料強度の割増は部材組み立て(squid_n_element::factory::build_nonlinear_behavior の
StrengthBasis::MaterialStrength)とヒンジ・せん断降伏閾値で適用し、係数は
squid_n_core::material_grade::{material_strength_factor_steel, material_strength_factor_rebar}
が算定します。
変位制御は、Ai 分布の比例荷重パターン \( \lambda \boldsymbol{q} \) を保持したまま、荷重係数 \( \lambda \) を「頂部変位 = 目標値」の拘束条件から決定します(Batoz–Dhatt の変位制御法)。各反復で釣合い残差解 \( \delta u_r = K^{-1}(\lambda \boldsymbol{q} - f_{\text{int}}) \) と荷重パターン解 \( \delta u_q = K^{-1} \boldsymbol{q} \) を解き、
\[ \delta\lambda = \frac{u_{\text{target}} - u_{\text{roof}} - \delta u_r[\text{roof}]}{\delta u_q[\text{roof}]}, \qquad \delta u = \delta u_r + \delta\lambda \cdot \delta u_q \]
として頂部変位拘束と力の釣合いを同時に満たす \( \lambda \) を定めます。収束は外力ノルム基準の相対残差(\( 10^{-6} \))と頂部変位の目標一致で判定し、収束しないステップは押込み増分を半減して再試行します。荷重制御から変位制御へ切替わっても載荷パターンは同一の Ai 分布のままであるため、荷重−変位曲線は連続で、ベースシアの低下は部材の剛性低下(ヒンジ形成・崩壊機構)によってのみ生じます。これにより解析は、設計地震力レベル(\( \lambda = 1 \))を超えて崩壊機構形成域まで押し切ることができます。 崩壊機構判定は、静的不静定次数 \( r = 3m - 3n + r_{\text{support}} \)(\( r_{\text{support}} \) は加力方向の平面内拘束自由度数)に対して降伏ヒンジ数 \( \ge r+1 \) をゲートとします。ここで \( m \)・\( n \) は、加力方向の平面骨組に関与する部材とその接続節点の数です。具体的には 2 節点の線材(梁・柱・ブレース)のうち部材軸が加力直交の水平方向へ卓越しない(軸単位ベクトルの直交水平成分の絶対値が 0.707 以下の)ものを \( m \) に数え、それらが接続する節点を \( n \)・\( r_{\text{support}} \) の集計対象とします(3 次元モデルを加力方向の平面骨組へ射影して次数式を適用する扱いで、直交方向の梁や耐震壁は算入しません)。
耐震壁の軸・曲げ
耐震壁(壁エレメントモデル)の壁柱は、柱と同様に既定でファイバー断面の弾塑性評価とします(コンクリート格子+縦筋の等価分散配置。4.5 壁エレメントモデル)。細長壁の曲げ降伏・軸力変動による N–M 相関が増分解析に反映されます。
耐震壁の面内せん断
耐震壁(壁エレメントモデル)は、面内せん断を終局せん断強度 \( Q_u \) で頭打ちとする弾完全塑性として扱う(4.5 壁エレメントモデル、8.4.2 耐震壁)ため、壁が伝達する面内水平力は \( Q_u \) を超えません。\( Q_u \) を算定できない壁があるモデルは、上記「解析前の入力チェック」によりエラーで停止します。
側柱(耐震壁の鉛直辺に取り付く柱)は面内曲げ面の端部回転を静的縮約し、面内せん断を負担しません(許容応力度計算と同じ扱い)。壁のせん断断面には側柱断面を算入します。
鋼板耐震壁を含むモデルでは、面内せん断を鋼板のせん断降伏 \( Q_y = t , l_w F/\sqrt{3} \) で頭打ちとします。せん断座屈を考慮していないため、解析の実行時に対象の枚数とあわせて注意事項を表示します(4.5 壁エレメントモデル)。
5.7.1 曲げヒンジ判定(Mc・My・終局)
曲げヒンジの発生レベルを判定します。 RC 曲げひび割れ(\( \kappa = 0.56 \)、技術基準解説書 P.621-623):
\[ M_c = \kappa \cdot \sqrt{F_c} \cdot Z_e \]
RC 曲げ降伏(\( d = \text{有効せい} \)、同 P.623):
\[ M_y = 0.9 \cdot a_t \cdot \sigma_y \cdot d \]
有効せい \( d \) は引張縁から引張筋重心までの距離 \( d_t \) を用いて \( d = D - d_t \) とします。
\( d_t \) はかぶり・せん断補強筋径・主筋径・多段配筋を考慮し、RC 断面検定と同じ
squid_n_core::rc_rebar_geom の規約で算定します(曲げばねの降伏モーメントも同一)。
鋼 全塑性:
\[ M_p = Z_p \cdot \sigma_y \]
算定式:\( m_{\max} \ge M_y \) かつ \( \mu \ge {} \)ULTIMATE_DUCTILITY(=4.0) のとき終局、\( M_c \le m_{\max} < M_y \) のときひび割れとします。
式の選択
配筋を持つ断面(RC 矩形・RC 円形)は、材料の区分に依らず上の RC の式を使います。 鋼の \( M_p = Z_p \sigma_y \) は配筋を無視した素の断面係数を使うため、RC 断面へ当てると \( M_y \) が桁で過大になり、曲げヒンジが検出されなくなるためです。 それ以外の断面は構造種別(2.5 構造種別の判定)で分け、 S は鋼の全塑性、複合断面(SRC・CFT)と形状を持たない断面は \( M_y = \sigma_y Z_e \)・\( M_c = \kappa \sqrt{F_c} Z_e \) の簡易値とします。 塑性断面係数 \( Z_p \) はすべての鋼断面形状(H 形・箱形・円形鋼管・組立 H 形・T 形・溝形・リップ溝形・山形・平鋼・中実丸鋼)について算定します(3.2 断面諸量)。
判定に用いる材端モーメントの位置
比較する材端モーメント \( m \) は、危険断面=剛域フェイスの値を用います。要素が返す材端力は グローバル系・節点位置のため、(1) 要素局所座標系へ回転し、(2) 剛体アームのモーメント (材端せん断 × アーム長)を差し引いて求めます(4.1.4 剛域)。 節点位置のモーメントは剛体アームぶん大きく、断面耐力 \( M_y \) と直接比較すると、剛域を持つ 部材のヒンジを過早に検出し、崩壊荷重を過小評価します(両端固定柱では \( m_{\text{node}} = Q \cdot L/2 \) となり、判定が剛域長に依存しなくなります)。 局所成分を用いることで、材軸まわりのねじりを曲げと取り違えることもありません。
材端ごとの記録
ヒンジは i 端・j 端それぞれについて判定・記録します。崩壊機構の運動学的ゲート (降伏ヒンジ数 \( \ge r+1 \))は (部材, 材端) の重複を除いて数えるため、1 部材につき モーメント最大側の 1 端しか記録しないと、両端が降伏した柱も 1 個としか数えられず、 機構が成立していても部分崩壊形と判定されます。
判定対象
曲げヒンジ・せん断降伏の判定対象は 2 節点の線材(梁・柱・ブレース)です。 耐震壁(壁エレメントモデル、4 節点)は線材の材軸(i 端 → j 端)が定義できない ため対象外とし、壁の非線形性は壁要素自身の弾塑性 (壁柱ファイバーの軸・曲げと、終局せん断強度 \( Q_u \) による面内せん断の 頭打ち。上記「耐震壁の軸・曲げ」「耐震壁の面内せん断」)で表現します。
実装:pushover/hinge.rs::{member_moment_thresholds, track_hinges} が算定します。
危険断面への変換は pushover/geom.rs::member_end_forces_at_face
(squid_n_element::frame::rigid_arm::to_flex_force)によります。
RC 主筋の σy は断面の主筋材料の \( f_y \) から解決します(未割当のモデルは解析前チェックで停止します)。鋼材 σy は断面の主材料の \( f_y \)、ない場合は既定 235 とします。
5.7.2 部材塑性率(ductility)の 3 方式
部材塑性率を 3 方式(基点ひずみ・重み付け平均・初降伏)で算定します。
算定式
方式(1) は基点ひずみによります。RC 引張 0.01、圧縮 0.005、鉄骨 0.01 を超えた曲率を基点とし、次とします:
\[ \mu = \kappa_{\max}/\kappa_{\text{ref}} \]
方式(2) は重み付け平均が次を満たす時点を基点とします:
\[ J_m = \frac{\sum \sigma_y \cdot A \cdot |\varepsilon| \cdot \mu_i}{\sum \sigma_y \cdot A \cdot |\varepsilon|} \ge 1.0 \]
方式(3) は初降伏によります。
実装:pushover/mod.rs::compute_ductility_refs が算定します。
5.7.3 せん断降伏判定(Qy)
せん断降伏を判定します。 鋼系は次によります(von Mises):
\[ Q_y = A_s \cdot f_y/\sqrt{3} \]
RC 矩形断面は荒川 mean 式系(rc_qsu_simple、軸力を各ステップで反映)によります。せん断補強筋の \( \sigma_{wy} \) は断面のせん断補強筋材料の \( f_y \) から解決し、未割当の場合のみ SD295 相当(295 N/mm²、規格上の最小グレード)を用います。
SRC 矩形断面は、RC 部と内蔵鉄骨の累加式によります(SRC 規準の累加強度の考え方):
\[ Q_y = {}rQ{su} + {}_sA_w \cdot {}_sF/\sqrt{3} \]
- \( {}rQ{su} \): RC 部の荒川 mean 式系。鉄骨を控除しない全断面 \( b \cdot D \) と配筋で評価し、軸力の各ステップ反映も RC 矩形と同一です。
- \( {}_sA_w \): 内蔵鉄骨のせん断有効断面積。強軸(局所 y)はウェブ内法 \( t_w (H - 2t_f) \)、弱軸(局所 z)は上下フランジ \( 2 B t_f \)(全塑性評価のため応力分布係数による低減は行いません)。
- \( {}_sF \): 内蔵鉄骨の基準強度。鋼種名の前方一致で当該板厚の区分から解決し、解決できない場合は 235 N/mm² とします。材料強度割増(直接入力係数優先、なければ鋼種名から判定: 鋼材 1.1・590N 級 1.05・鋼種名を解決できない場合は割増なし 1.0)を乗じます。
材料に降伏強度 \( f_y \) が設定されていても(主筋 \( \sigma_y \) の解決用など)、断面形状から精算できる RC 矩形・SRC 矩形は常に上記の式で評価します(\( f_y \) による鋼系の式 \( Q_y = A_s f_y/\sqrt{3} \) は、形状から精算できない断面のみに用います)。
SRC 矩形以外のコンクリート系断面(形状情報がない場合等)は \( Q_y = A_s \cdot 0.7\sqrt{F_c} \)(簡易慣用値)へフォールバックします。
材料強度が未入力で \( Q_y \) を算定できない部材、および有効せん断断面積 \( A_s \) が 0 の断面を用いる部材は、解析前チェックにより解析が停止します(上記「解析前の入力チェック」、3.3 せん断有効断面積 As)。
実装:pushover/mod.rs::build_dir_threshold が算定します。
RC の \( \sigma_y = 345 \)(SD345)、\( \sigma_{wy} = 295 \)(SD295)は「要・原典照合」と明記します。
局所せん断を ey/ez へ射影して方向別に判定します。