仕口パネル要素
柱梁接合部のせん断変形を、接合部の節点に設ける仕口パネル要素として評価します。仕口パネル要素は接合部内にある寸法 \( (B_x, B_y, D_z) \) の 6 面体で、仕口パネル要素が設けられた節点はせん断変形角 \( \gamma_X \)・\( \gamma_Y \) の 2 自由度を追加で持ちます。
記号・単位
| 記号 | 意味 | 単位 |
|---|---|---|
| \( B_x,\ B_y,\ D_z \) | 仕口パネル要素の寸法(接合部内の 6 面体) | mm |
| \( \gamma_X,\ \gamma_Y \) | 仕口パネル要素のせん断変形角(X・Y 方向) | - |
| \( V_e \) | 仕口パネル要素の剛性、または柱梁接合部の断面算定に用いる実効体積 | mm³ |
| \( d_c \) | 柱せい方向の仕口パネル要素または柱梁接合部の寸法 | mm |
| \( d_b \) | 梁フランジ板厚中心間距離 | mm |
| \( t_p \) | 仕口パネル要素または柱梁接合部に用いるパネル板厚 | mm |
| \( G \) | せん断弾性係数 | N/mm² |
| \( K_{xp},\ K_{yp} \) | 仕口パネル要素のせん断剛性(X'・Y' 方向) | N·mm/rad |
| \( m_{xp},\ m_{yp} \) | 仕口パネル要素のせん断モーメント | N·mm |
| \( \kappa \) | 仕口パネル要素または柱梁接合部の形状係数 | - |
| \( n \) | 対象柱の軸力比(仕口パネル要素または柱梁接合部の断面算定) | - |
| \( F_y \) | 対象柱の鋼材の基準強度(F 値) | N/mm² |
| \( {}_pM_y \) | 仕口パネル要素または柱梁接合部の降伏耐力 | N·mm |
モデル化の対象と既定
仕口パネル要素のモデル化は既定で有効で、準備計算パネルの「部材のモデル化」で建物一律に切り替えます。無効にすると接合部を剛節点として扱い、仕口パネル要素のせん断変形を考慮しません。
仕口パネル要素を設けるのは、次のすべてを満たす節点です。
FrameSectionUse::Columnの主架構線材が 1 本以上・FrameSectionUse::Girderの主架構線材が 1 本以上取り付く- 取り付く柱・梁がすべて S 造(CFT を除く)
- 諸元を解決できる柱が 1 本以上あり、実効体積 \( V_e \) が正
仕口パネルの接合位置を適用できる幾何条件として、部材軸の鉛直成分 \( |e_z| \) が 0.8 以上または 0.2 以下であることを要求します。この範囲に入らない部材は斜材として仕口パネルの自由度と連成させず、節点で接合します。
ElementKind は解析定式化、FrameSectionUse は設計用途を表します。仕口パネルの柱・大梁候補は用途で抽出し、傾斜した柱や勾配のある大梁も用途を変更しません。部材軸の鉛直成分は、接合位置を適用できる幾何条件の確認にだけ用います。FrameSectionUse::Brace、用途不明、用途と ElementKind が不整合な部材は柱・大梁候補にせず、幾何から用途を補いません。
構造種別は構造種別の判定によります。材料の区分で決まるため、H 形の断面でも材料がコンクリートなら対象外になり、矩形断面でも材料が鋼材なら対象になります。
RC/SRC の柱・梁が 1 本でも取り付く接合部は仕口パネル要素のモデル化対象外です。取り付く梁が RC であれば、柱が S であっても接合部はコンクリートが全体を拘束する RC の接合部になり、鋼部材だけの実効体積による弾性せん断剛性 \( G \cdot V_e \) では挙動を表せません。これらの柱梁接合部は剛域で有限寸法を評価し、断面算定は構造種別に応じた柱梁接合部の式で行います。
仕口パネル要素を設ける S 造接合部では、接合部に接続する柱・梁がすべて S のため剛域長が 0 となり、仕口パネル要素のせん断変形を明示的に評価しても剛域と二重に評価することにはなりません。
仕口パネル要素のモデル化対象
CFT 柱を 1 本でも含む接合部は仕口パネル要素のモデル化対象外とします。CFT の接合部では充填コンクリートと通しダイアフラムが接合部のせん断挙動に関与し、鋼管のみの実効体積では剛性を表せないため、接合部を剛節点として扱います。柱梁接合部の断面算定での扱いは後述します。
| 柱断面 | 仕口パネル要素のモデル化 |
|---|---|
| H 形鋼・角形鋼管・円形鋼管 | 対象 |
| CFT(角形・円形) | 対象外 |
| RC・SRC | 対象外 |
| 組立 H 形 | その柱からは諸元を解決しない |
上表の「対象」は個々の柱断面の扱いです。接合部全体では、取り付く柱・梁がすべて S 造で、CFT 柱を含まず、諸元を解決できる柱が 1 本以上ある場合に仕口パネル要素をモデル化します。RC/SRC が 1 本でも混じる接合部は対象外です。組立 H 形柱はそれ自体から諸元を解決しませんが、他に諸元を解決できる柱があれば、その柱を採用して接合部をモデル化します。解決可能な柱がない接合部は対象外です。
仕口パネル要素の剛性
仕口パネル要素は部材座標系 X'-Z' 平面内と Y'-Z' 平面内でせん断モーメント \( {m_{xp}, m_{yp}} \) とせん断変形角 \( {\gamma'_x, \gamma'_y} \) を持ち、剛性は寸法とせん断弾性係数 \( G \) から定まります。
\[ \begin{Bmatrix} m_{xp} \\ m_{yp} \end{Bmatrix} = \begin{bmatrix} K_{yp} & 0 \\ 0 & K_{xp} \end{bmatrix} \begin{Bmatrix} \gamma'_x \\ \gamma'_y \end{Bmatrix}, \quad K_{yp} = K_{xp} = G \cdot V_e \]
節点の変位と仕口パネル要素の変形は次式で適合させます。\( \theta \) は仕口パネル要素の部材座標系が基準座標系 X-Y 平面内で回転する角度で、本実装では 0 固定(直交フレームを前提)です。
\[ \begin{Bmatrix} \gamma'_x \\ \gamma'_y \end{Bmatrix} = \begin{bmatrix} -1 & 0 \\ 0 & 1 \end{bmatrix} [T_p] \begin{Bmatrix} \gamma_X \\ \gamma_Y \end{Bmatrix}, \quad [T_p] = \begin{bmatrix} \cos\theta & \sin\theta \\ -\sin\theta & \cos\theta \end{bmatrix} \]
仕口パネル要素の応力は次の変換をしたあと、節点に集められて釣り合います。
\[ \begin{Bmatrix} M_{SX} \\ M_{SY} \end{Bmatrix} = [T_p]^{\mathsf T} \begin{bmatrix} -1 & 0 \\ 0 & 1 \end{bmatrix} \begin{Bmatrix} m_{xp} \\ m_{yp} \end{Bmatrix} \]
\( K_{xp} = K_{yp} \) のとき、この一連の変換は直交変換になるため、節点座標系での仕口パネル要素の剛性は \( \theta \) に依らず \( \mathrm{diag}(K, K) \) に帰着します。
実装参照:柱・梁用途の解決と幾何条件の適用は sepika_core::panel_zone::resolve_panel_joint(crates/sepika-core/src/panel_zone.rs)が担います。仕口パネル要素は sepika_element::springs::panel::PanelZone(crates/sepika-element/src/springs/panel.rs)が表し、弾性要素は PanelZone::new が生成します。
仕口パネル要素の寸法と実効体積
仕口パネル要素のモデル化対象は S 造(CFT を除く)であるため、ここでは鋼製柱の諸元を示します。
体積 \( V_e \) は柱断面の形状から次のとおり算定します。\( d_c \) は柱せい方向の仕口パネル要素の寸法、\( d_b \) は梁フランジ板厚中心間距離、\( t_p \) は仕口パネル要素の板厚です。
| 柱断面 | \( d_c \) | \( t_p \) | \( V_e \) |
|---|---|---|---|
| H 形鋼 | せい − フランジ厚 | ウェブ厚 | \( d_c \cdot d_b \cdot t_p \) |
| 角形鋼管 | せい − 板厚 | 板厚 | \( 2 \, d_c \cdot d_b \cdot t_p \) |
| 円形鋼管 | 外径 − 板厚 | 板厚 | \( 2 \, d_c \cdot d_b \cdot t_p \) |
H 形柱ではウェブ厚方向の寸法を \( B_y = t_p \) と対応させたものであり、中実 6 面体の体積ではなく板厚分の実効体積になります。角形・円形はウェブ 2 枚相当として 2 倍とします。
\( d_b \) は接合部に取り付く梁のうち最大の値を採り、H 形鋼の梁は「せい − フランジ厚」、それ以外の断面は情報がないため \( 0.9 \times \) せいで近似します。
仕口パネル要素の板厚 \( t_p \) は次の順で解決します。
- 断面の「パネル板厚 tp」が入力されていればその値(ダイアフラム補強・ダブラープレートによる増厚の明示指定)
- 未入力なら上表のとおり柱の断面形状から算定
「パネル板厚 tp」はモデルタブの断面作成パネルで、対象の断面を選んだうえで入力します。空欄・0 は未入力を表し、断面形状からの算定値を用います。この値は CFT を除く S 造の仕口パネル要素のモデル化と、S/CFT の柱梁接合部の断面算定に使われます。CFT では仕口パネル要素を生成しませんが、柱梁接合部の断面算定には用います。
柱が複数取り付く節点では、諸元を解決できる候補柱の正の実効体積 \( V_e \) のみを比較し、\( V_e \) が最小の柱を 1 本採用します。採用柱から \( d_c \)・\( t_p \)・\( \kappa \)・\( G \)・\( F_y \)・軸力比 \( n \) に用いる諸元をそろえます。同じ \( V_e \) の場合は要素順で先に現れる柱を採用するため、入力順に依存します。剛性 \( G V_e \) は \( G \) に、耐力 \( V_e F_y/\kappa \) は \( F_y \)・\( \kappa \)・軸力比に依存するため、\( V_e \) 最小の柱の剛性・耐力が最小になることも、安全側になることも保証されません。
この \( V_e \) はS 造柱梁接合部の断面算定に用いる値と共通です。CFT の柱梁接合部については仕口パネル要素を生成せず、詳細な諸元・式は同ページを正本とします。
部材との接合位置
仕口パネル要素が設けられた節点では、部材は節点そのものではなく、仕口パネル要素の寸法分だけ離れた接合位置で接合します。節点の変位(せん断変形角を含む 8 成分)と部材端の変位(6 成分)は次式で適合します。
\[ {d} = {D} + [B_0]{\Phi} + [B_{tp}]{S}, \quad {\phi} = {\Phi} + [B_p]{S} \]
\[ [B_0] = \begin{bmatrix} 0 & Z_0 & -Y_0 \\ -Z_0 & 0 & X_0 \\ Y_0 & -X_0 & 0 \end{bmatrix}, \quad [B_{tp}] = \frac{1}{2}\begin{bmatrix} 0 & Z_0 \\ -Z_0 & 0 \\ -Y_0 & X_0 \end{bmatrix}, \quad [B_p] = \begin{bmatrix} \zeta & 0 \\ 0 & \zeta \\ 0 & 0 \end{bmatrix} \]
部材端の応力も同じ変換行列の転置で節点位置へ写され、仕口パネル要素のせん断モーメントと釣り合います。
\[ M^p_{SX} + \sum_i M^i_{SX} = 0, \quad M^p_{SY} + \sum_i M^i_{SY} = 0 \]
係数 \( \zeta \) は部材が仕口パネル要素のどの面で接合するかで決まり、水平材(はり)は \( -0.5 \)、鉛直材(柱)は \( +0.5 \) とします。仕口パネル要素のせん断変形角の半分ずつを、梁と柱が互いに逆向きの材端回転として受け持つことを表します。
オフセット \( {X_0, Y_0, Z_0} \) の大きさは接合部の物理的な半寸法とし、向きは節点から部材の他端へ向かう単位ベクトルとします。梁は柱フェースで、柱は梁フェースで接合します。
| 部材 | オフセットの大きさ |
|---|---|
| 梁(水平材) | 節点に取り付く柱せいの最大値 / 2 |
| 柱(鉛直材) | 節点に取り付く梁せいの最大値 / 2 |
この寸法には断面のせい \( D \) を用います。実効体積 \( V_e \) の \( d_c \)・\( d_b \) はせん断を負担する範囲を表す量で、フランジ厚を差し引くぶん物理的な外形より小さくなるため、部材が実際に取り付く位置を表す接合位置には外形のほうを用います。
仕口パネル要素分のオフセットは部材の剛体アーム長へ算入します(仕口パネル要素の剛域長への反映)。剛体アーム \( [B_0] \) は剛域変換がそのまま担い、幾何剛性・せん断降伏の内法高さ・座屈長さ係数の剛度比も同じ可撓長を用います。剛域長とオフセットは入力・表示上区別しますが、剛域の自動再算定はオフセットを変更せず、パネル配置の再生成時に現在の配置から更新します。
このオフセットは、断面算定の危険断面位置とは独立に定めます。危険断面位置は設計上の評価位置であって、部材が実際にどこで接合するかとは別に定まるためです。
仕口パネル要素(S造)の弾塑性
この節の降伏耐力式と形状係数は、仕口パネル要素をモデル化する S 造に適用します。CFT の式は柱梁接合部の断面算定専用であり、仕口パネル要素の弾塑性モデル化には用いません。
保有水平耐力計算(増分解析)・非線形時刻歴応答解析では、仕口パネル要素の降伏を考慮します。骨格は次の降伏耐力を持つバイリニア(二次勾配比 0.01)とし、履歴則は線形移動硬化(kinematic hardening。除荷剛性は初期剛性、再載荷で降伏点が移動)です。
軸力比 \( n=0 \) の基準降伏耐力を \( {}_p M_{y0} \) として、次式で定義します。
\[ {}_p M_{y0} = (V_e/\kappa) (F_y/\sqrt{3}) \]
形状係数 \( \kappa \) は断面ごとに次式によります。\( b_c \) は柱のフランジ幅(角形は柱幅)、\( t_f \) はフランジ厚です。
| 柱断面 | \( \kappa \) |
|---|---|
| H 形鋼 | \( \dfrac{1}{2/3 + 4 b_c t_f/(d_c t_p)} + \dfrac{1}{1 + d_c t_p/(6 b_c t_f)} \) |
| 角形鋼管 | \( \dfrac{1}{2/3 + 2 b_c/d_c} + \dfrac{1}{1 + d_c/(3 b_c)} \) |
| 円形鋼管 | \( 4/\pi \) |
軸力比 \( n \) は、仕口パネル要素が属する柱の各ステップの軸力から、圧縮軸力 \( /(F_y \cdot A) \) として更新します。引張軸力では \( n=0 \) とし、\( n \) は 1.0 でクランプします。軸力比を反映した理論上の降伏耐力は次式です。
\[ {}_p M_y(n) = {}_p M_{y0} \sqrt{\max(0, 1-n^2)} \]
非線形ばねに設定する降伏耐力は、数値安定化のため次式の下限を設けます。
\[ {}_p M_{y,\mathrm{spring}} = \max({}_p M_y(n), 0.02,{}_p M_{y0}) \]
この 2 % 下限は非線形仕口パネル要素の数値安定化にのみ適用し、柱梁接合部の断面検定には適用しません。\( n \) が 1 に近い領域では、理論値より非線形ばねの耐力を大きくするため、安全側とは限らず危険側になりうる現行実装上の制限です。
柱の軸力は、材端集中ばねの N–M 相関と同じく、蓄積した節点変位から弾性軸剛性 \( EA/L \) で評価します。
仕口パネル要素の基準強度 \( F_y \) は柱の鋼種名の前方一致(板厚 40 mm 区分)で解決し、解決できない場合は材料の降伏強度、それもない場合は 235 N/mm² とします。
実装参照:弾塑性の仕口パネル要素は sepika_element::springs::panel::PanelZone::new_nonlinear が生成し、降伏耐力は PanelZone::yield_moment、軸力比は PanelZone::axial_ratio、仕口パネル要素のモーメントは PanelZone::panel_moments が返します(いずれも crates/sepika-element/src/springs/panel.rs)。履歴則は sepika_material::uniaxial::Bilinear(二次勾配比 0.01)です。
質量
仕口パネル要素は質量を持ちません。せん断変形角の自由度に対応する質量はなく、固有値解析では回転自由度と同じく質量を持たない方向として扱われます。
柱梁接合部の断面算定
仕口パネル要素のモデル化と柱梁接合部の断面算定は独立です。CFT は仕口パネル要素をモデル化しませんが、CFT を含む柱梁接合部は断面算定の対象です。
柱梁接合部の対象範囲、CFT の \( d_c \)・\( t_p \)・\( d_b \)・\( V_e \)・\( \kappa \)・\( n \)・\( F_y \)、降伏耐力式、設計用モーメント、検定方法は S 造柱梁接合部 に集約しています。CFT の詳細な算定式の正本は同ページであり、本ページでは仕口パネル要素と柱梁接合部の対象範囲の境界だけを示します。
諸元の確認
生成された仕口パネル要素の寸法(\( d_c \)・\( d_b \)・\( t_p \))・実効体積 \( V_e \)・せん断剛性 \( K_{xp} \) は、準備計算タブの「仕口パネル」で確認できます。3D の位置はモデル化ビューで確認できます。
実装参照
- 接合部判定・半せい:
sepika_core::panel_zone(panel_half_extent・resolve_panel_joint等) - 自動生成:
sepika_element::springs::panel_gen::apply_auto_panel_zones - S 造柱梁接合部の断面算定:
sepika_design_jp::steel::panel_zone::s_panel_zone_check - 準備計算での一覧:
sepika_app準備計算タブ「仕口パネル」(仕口パネル)