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5.2 線形静解析

変位法(有限要素法)により、部材内力と変位を求めます。

算定式

全体剛性 K_free を組立て、拘束を縮約して次を得ます:

\[ K_{\text{red}} = \text{reducer}^\mathsf{T} \cdot K_{\text{free}} \cdot \text{reducer} \]

次を解き、部材内力を behavior.recover_forces(u_elem) で回復します:

\[ u = K_{\text{red}}^{-1} \cdot F_{\text{red}} \]

実内力は、剛性応答と両端固定梁のスパン内力(fixed_internal_local)の重ね合わせとします。

線材(柱・梁・ブレース)は、剛床への所属や ForceRegime の指定に依らず、すべて 弾性要素(弾性ティモシェンコ梁・弾性トラス)で組みます(4.9.4)。したがって線材の 部材内力は全部材について出力され、応力図・断面検定の対象になります。材端集中ばね・ ファイバーといった弾塑性の梁要素は非線形解析でのみ用います。

解析前の入力チェック

解析の実行前に、モデルの静的な検証を行います。 次の不備は、何をすれば直るかを含むエラーとして扱い、解析を停止します。 断面や材料が未割当の要素を既定値で補って解析することはありません。

  • 節点・部材の ID と配列添字の不一致、存在しない断面・材料への参照など、モデル検証で見つかる不整合
  • 節点・部材・支点(拘束)が 1 つもない
  • 断面・材料が必要な要素(梁・柱・ブレース・ファイバー・マルチスプリング・シェル・壁)の断面が未割当、または材料が未割当
  • シェル要素の断面に板厚がない(線材用断面を割り当てた場合など)
  • 線材の有効せん断断面積 As が 0(3.3 せん断有効断面積 As
  • 耐震壁と周辺架構の構造種別の食い違い
  • 断面が未割当の床、断面の材料または板厚が定まらない床(1.8 床の断面と自重
  • 存在しない節点への参照(ダングリング)、およびどの部材・拘束・床にも属さない孤立節点
  • 基部以外の階で、剛床マスター節点が水平方向(Ux または Uy)に拘束され、かつその階の地震用重量が正のとき

仕口パネル・節点バネ・免震支承材・制振ダンパーは、断面や材料ではなく専用の特性値から剛性を作るため、断面と材料の未割当チェックの対象外です(仕口パネル)。

基部の床では、柱脚が固定またはピンで水平拘束されているとき、剛床マスターも水平拘束になります。 これは剛床が動けるかどうかの判定結果であり、地震用重量があってもエラーにはしません。 上階で同じ状態になるのは、床面に柱や大梁が取り付いておらず、非構造節点だけが剛床のスレーブになっているときです。 その階の地震力はマスターへ載るため、水平拘束された自由度へ入ると解析結果に現れません。 地震用重量が 0 の階は、消える水平力も 0 であるため、この検査の対象外です。

この一覧は、下ドックの「診断」タブがエラーとして挙げる項目と同じで、どちらも同じ判定を呼んでいます。 判定は解析を止めない警告も返し、剛床のない階や、断面未割当の壁版などがその例です。 入力チェックはエラーだけを見て停止するため、警告では解析は止まりません。 入力チェックは最初の 1 件で解析を止めるため、不備が複数あるモデルでは、修正と再実行を繰り返すことになります。 解析の前にまとめて洗い出したい場合は、準備計算のモデル整合性チェックを確認してください。 こちらは不備をすべて挙げ、部材や節点ごとに 3D ビューで位置を示すため、修正の順序を立ててから解析へ進めます。

実装statics::analysisanalysis/precheck.rs::model_issues)が検証します。 解析前の入力チェック(precheck_model)と診断はどちらもこれを呼びます。

部材内力の符号規約

評価断面の内力 \( [N, Q_y, Q_z, M_x, M_y, M_z] \) は、部材全長で連続な断面力 (切断法による断面の力の釣合いから定まる値)として出力します:

  • 軸力 \( N \) は引張を正とする。
  • せん断力とモーメントは \( Q_y = dM_z/dx \)・\( Q_z = -dM_y/dx \) を満たす。
  • 曲げモーメント \( M_z \) は局所 \( -y \) 側(重力方向の下向き荷重を受ける 水平梁では下端)の引張を正とする。両端固定梁の等分布荷重では端部 \( -wL^2/12 \)・中央 \( +wL^2/24 \) となる。
  • 応力図は正のモーメントを引張側(局所 \( -y \) 方向)へ張り出して描画する。 張り出しの実線と材軸の間の領域を塗りつぶす。塗りは単色のほか、値に応じた 色分け(コンター表示。カラーバー凡例付き)へ切り替えられる。コンターの カラーマップは Viridis(既定。知覚均等で色覚多様性に配慮)・Plasma・ Turbo・Jet・青-白-赤(発散型)から選択できる。

実装statics::linearlinear/mod.rs::linear_static_once)が算定します。 長期の柱軸力無効化は、断面積に AXIAL_DISABLE_FACTOR = 1e-6 を乗じて行います(一貫構造計算プログラムの実務慣行)。 柱判定は \( |e_z/L| > 0.707 \) によります。

5.2.1 荷重組合せの応答(重ね合わせ)

求解の最小単位は荷重ケース単体です。荷重組合せの応答は、荷重ケース単体の応答を 組合せ係数で倍して足し合わせて求めます(重ね合わせの原理)。

算定式

荷重組合せが荷重ケース \( L_1, L_2, \dots \) を係数 \( c_1, c_2, \dots \) で参照する場合、 節点変位 \( u \) と部材断面力 \( S \)(評価断面ごとの \( [N, Q_y, Q_z, M_x, M_y, M_z] \))は

\[ u = \sum_i c_i , u_i, \qquad S = \sum_i c_i , S_i \]

とします。ここで \( u_i, S_i \) は荷重ケース \( L_i \) 単体の応答です。

線形解析では剛性が応答に依存しないため、この線形和は荷重ベクトル \( F = \sum_i c_i F_i \) を組み立てて 1 回解いた結果と理論上一致します。部材中間荷重による スパン内力(両端固定梁の内力。上式の \( S_i \) に含まれます)も同じ係数で倍されるため、 等分布荷重を受ける梁の M の放物線分布は組合せでも保たれます。

この扱いにより、同じ荷重ケース(DL・LL・EX・EY など)を参照する荷重組合せが 何件あっても、求解は荷重ケースの数だけで済みます。GUI の「単体実行」「一括解析」は いずれもこの経路を使い、単体実行で荷重組合せを選んだ場合は、その組合せが参照する 荷重ケースを解いてから線形和を組み立てます。

実装statics::analysisanalysis/combination.rs)の Analysis::{linear_combination, linear_combination_batch, linear_static_with_combinations} が 組み立て、線形和そのものは linear::superpose_static が行います。 参照する荷重ケースが存在しない、またはその荷重ケースの解析が失敗した場合、その荷重組合せは エラーとして扱います(該当項が黙って 0 になることを避けるため)。