耐震壁のせん断形状係数 κ
側柱付き耐震壁は、壁板をウェブ・両端の側柱をフランジとする平面 I 形断面とみなし、せん断形状係数 κ を材料力学の定義(Timoshenko 梁のせん断補正係数)から厳密に算定します。
算定式
\[ \kappa = \frac{A}{I^2} \int \frac{Q(y)^2}{b(y)} \, dy \]
- \( A \): 断面積、\( I \): 断面二次モーメント
- \( Q(y) \): 位置 \( y \) より上の断面一次モーメント
- \( b(y) \): 位置 \( y \) における断面幅(ウェブ部は壁厚 \( t \)、フランジ部は側柱幅)
面内曲げの断面は「壁長方向を断面のせい、壁厚方向を断面の幅」とみなし、断面のせいは側柱外面間の全長 \( D \)、フランジは両端の側柱(沿壁方向せい \( d_c \)・壁直交方向幅 \( b_c \))、ウェブは壁板(せい \( D - 2 d_c \)・幅 \( t \))です。
性質
- 一様矩形(側柱なし、側柱幅が壁厚に等しい、または中央のウェブせいが0)では \( \kappa = 1.2 \)(=
KAPPA_RC)。 - 係数はフランジ・ウェブの寸法比に依存します。側柱せいを増やして中央のウェブせいが0になると矩形断面となるため、側柱寸法に対して単調に増えるとは限りません。
- せん断断面積 \( A/\kappa \) は総断面積を超えません。
積分の評価
\( c=D/2,\ a=c-d_c,\ q_a=b_c d_c(c+a)/2 \) とすると、半断面の各区間の積分は次の多項式になります。
\[ J_w=\frac{a q_a^2}{t}+\frac{2q_a a^3}{3}+\frac{2ta^5}{15} \] \[ J_f=b_c d_c^3\left(\frac{c^2}{3}-\frac{c d_c}{4}+\frac{d_c^2}{20}\right) \] \[ \kappa=\frac{2A(J_w+J_f)}{I^2},\qquad I=\frac{2}{3}\left(t a^3+b_c d_c(c^2+ca+a^2)\right) \]
実装では、幅が一定の各区間を3点Gauss積分で評価します。各区間のQは二次式、Q²/bは四次式であり、3点Gauss積分は五次までの多項式を厳密に積分するため、上記の多項式積分と一致します(浮動小数点の丸め誤差を除く)。幅一定の区間を細分する設定や既定分割数はありません。
共通処理 section_shape::strip_section_properties は、連続区間ごとの長さ・幅から、同じ断面の面積・始点からの図心位置・図心まわりの断面二次モーメント・せん断有効断面積を返します。同一材料で幅方向対称の断面を前提とします。空の区間列、非正・非有限の寸法、算定不能な性能値には値を返しません。
実装参照:section_shape::wall_shear_shape_factor_isection が算定します。非有限の寸法、全せい・幅が非正の場合は1.2を返します。側柱せいは0以上かつ全せいの半分以下に制限し、側柱せいが0、または側柱幅が壁厚以下の場合も1.2とします。計算結果が非有限または1未満の場合は1.2を返します。
側柱の断面形状は明示指定が必要です。形状未定義の側柱は解析前の入力エラーとします。断面積・幅・せいだけから形状を推定する既定の扱いはありません。入力チェックの実装は sepika-solver/src/statics/analysis/precheck.rs です。
矩形の和集合断面を求める補助関数 section_shape::wall_rectangular_section_properties は、壁長・壁厚と左右個別の沿壁方向せい・壁直交方向幅を受け取ります。壁厚中央に柱中心があり、各矩形の辺が壁に平行・直交する同一材料断面が対象です。柱なしは None で明示します。各矩形の境界で区間を区切り、同じ区間を覆う矩形の最大幅を用いることで、壁と柱・柱同士の重複を一度だけ数えます。図心は左の壁端から測ります。非正・非有限の寸法や算定不能な性能値は返しません。この補助関数は壁要素本体の断面集計には接続していません。
材料間の接合条件
鋼材・コンクリートの合成断面は完全付着とし、界面のすべりを考慮しません。界面にすべりが生じる場合には変形を過小評価しうる危険側の近似です。適用できる断面形状は壁エレメントモデルによります。
材料定数が区間ごとに異なる断面の積分
material_strip_section_properties は、完全付着・平面保持を前提とする区分一定幅断面を扱います。各区間の幅方向は単一材料とし、区間間ではE・Gを別々に指定します。材料定数の既定値はありません。面積の図心と区別して、弾性図心をEで重み付けして求めます。
\[ y_E=\frac{\int E(y)b(y)y\,dy}{\int E(y)b(y)\,dy},\qquad D=\int E(y)b(y)(y-y_E)^2\,dy \] \[ Q_E(y)=\int_{y_{min}}^y E(s)b(s)(s-y_E)\,ds,\qquad K_s=\frac{D^2}{\int Q_E(y)^2/[G(y)b(y)]\,dy} \]
断面性能は幾何学的な面積 [mm²]、弾性図心 [mm]、曲げ剛性D [N·mm²]、せん断剛性Ks [N]です。均質断面ではD=EI、Ks=GAsに一致します。Q_E²/(Gb)は各区間内で四次式なので、3点Gauss積分で評価します。この関数自体は区間ごとの幅・E・Gを受け取り、材料領域の重複判定は呼び出し側が行います。
実形状と材料別幅による一次元せん断流モデル
壁要素は wall/shear_section.rs を通じて、側柱の回転を反映した各位置yの材料別実幅bi(y)を求めます。矩形は直線、円・角丸は円弧との交差から幅を求め、外接矩形では代用しません。非対称鋼材の基準点は幾何学的図心です。壁と柱の重複部分は柱材料を優先し、同一材料の重なりを二重計上しません。SRCは内蔵H形鋼をコンクリートから控除し、CFTは外周の鋼管と内部コンクリートを区別します。中空鋼材の空洞は材料なしとして保持し、壁材料で埋めません。
幅方向のせん断ひずみを共通とする一次元モデルを用います。Eの幅積分はB_E(y)=ΣEi bi(y)、Gの幅積分はB_G(y)=ΣGi bi(y)です。上式のEb・GbをそれぞれB_E・B_Gに置き換えて積分します。これは幅方向のせん断変形の分布を省略する近似で、局所的なせん断変形を過小評価しうる危険側の近似です。完全付着の条件だけから幅方向のひずみ一定が保証されるわけではありません。面外曲げとの連成を求める断面内二次元せん断解析ではありません。
材料定数は壁・左右柱の割当材料を個別に使用し、Gの明示値があれば優先します。SRC内蔵鋼材は断面の鉄骨材料を使用し、未指定はエラーです。CFT充填部は鋼管材料に指定したFcとコンクリートの種類から、無筋コンクリートの単位体積重量表でγCを求めてEを算定し、ν=0.2からGを求めます。鋼管材料の密度は用いません。Fcの未指定・非正値はエラーです。RC主筋をせん断剛性の材料領域には加えません。
断面形状の端・矩形頂点の投影・壁厚境界との交点で積分区間を区切ります。各区間の中点で実幅を評価し、区分一定幅の積分へ渡します。1分割から2倍ずつ最大8192分割まで細分し、面積・曲げ剛性・せん断剛性の相対変化と、全断面長で無次元化した弾性図心の変化が1e-6以下となることを連続2回確認します。収束しない場合は計算を中止します。この収束判定は一次元モデルの数値積分誤差を管理するもので、上記のモデル化の近似を解消するものではありません。
数値処理では、幅を求める座標変換の方向余弦が1e-14未満の場合は平行として扱い、投影された積分区間の境界差が1e-10 mm以下の場合は同一境界として統合します。