計算根拠(理論・出典)
このセクションは、Squid-n が行う各計算について、どの基準や法令のどの式で算定しているかを体系的に示します。
構造計算一貫プログラムは、応力や変形、検定比、保有水平耐力といった出力を、法令や規準に定められた根拠に基づいて算定したものだと説明できなければなりません。 このセクションは「なぜその値になるのか」、すなわち法令、規準、力学の根拠を扱います。 開発者向けの設計仕様(specs)と検証記録(V&V)はリポジトリにあります。
このセクションの読み方
各計算項目は、原則として次の順で記します。
まず導入文で、何を算定するか、そしてその根拠となる法令(建築基準法施行令)の条番号、告示番号、学会規準名、文献のページを述べます。
続いて 算定式 として、Squid-n が実装している式そのものを、定数、分岐条件、クランプ範囲まで含めて示します。
最後に 実装 で、どのクレートのどの関数が算定するかを crate::path::func の形で示し、読者がコードと照合できるようにします。
数式は原則として、実装コードに現れる記号や係数の形で記すとともに、実装への逐語的な定数の対応は、技術リードのサインオフ用チェックリストである原典照合リストと相互に参照します。
目次
| # | ドキュメント | 主な内容 | 主な根拠 |
|---|---|---|---|
| 1 | 荷重・外力 | 固定・積載・積雪・地震力(Z・Rt・Ai・C0・T)、荷重組合せ | 令 82〜88 条、告 1793 |
| 2 | 材料構成則・材料強度 | 一軸履歴則、コンクリート/鋼の応力ひずみ、F値、許容応力度の材料基礎 | 令 90〜91 条、令 96・98 条、告示 |
| 3 | 断面性能 | 断面諸量(A・I・Z・Zp)、せん断形状係数、ヤング係数、SRC/CFT 等価剛性、ファイバー断面 | RC 規準、各規準 |
| 4 | 要素の定式化・剛性 | ティモシェンコ梁、剛域、CMQ、MITC4 シェル、壁エレメント、パネルゾーン、ばね | 力学(マトリクス法・FEM) |
| 5 | 構造解析 | 線形静解析、固有値、幾何剛性、時刻歴(Newmark-β)、減衰、非線形解法、増分解析(プッシュオーバー) | 力学(数値解析法) |
| 6 | 一次設計(許容応力度計算) | RC・S・SRC の断面検定、接合部、付着・定着、座屈長さ | 令 82 条、RC 規準、鋼構造規準 |
| 7 | 二次設計(保有水平耐力計算) | 保有水平耐力 Qu、必要保有 Qun、Ds、部材ランク、幅厚比、剛性率 Fs、偏心率 Fe、層間変形角 | 令 82 条の 2〜6、告 1792 |
| 8 | 部材終局耐力 | RC/S/SRC/CFT の Mu・Qmu・Qsu(荒川式・塑性理論式)、耐震壁非線形、接合部終局 | 靭性保証型指針、終局強度型指針、技術基準解説書 |
| 9 | 免震・制振 | 免震アイソレータ、摩擦ばね、オイル/履歴ダンパー、座屈拘束ブレース | 各指針 |
| 10 | 数量積算 | コンクリート体積・型枠面積・鉄筋/鉄骨重量・鉄筋継手の部位別概算集計 | 概算数量の慣用手法、JIS G 3112 |
法的根拠の全体像
日本の建築構造計算(許容応力度等計算と保有水平耐力計算のルート)は次の階層で規定されるため、Squid-n はこの体系に沿って計算を構成しています。
建築基準法 20条(構造耐力)
└ 建築基準法施行令 第3章(構造強度)
├ 令82条 … 許容応力度等計算(応力度計算・層間変形角)
├ 令82条の2 … 層間変形角(1/200、緩和 1/120)
├ 令82条の3 … 保有水平耐力(Qu ≧ Qun = Ds·Fes·Qud)
├ 令82条の4 … 屋根ふき材等
├ 令82条の6 … 剛性率・偏心率(Fs・Fe)
├ 令85〜86条 … 積載荷重・積雪荷重
├ 令88条 … 地震力(C0・Ci・Z・Rt・Ai)
├ 令89〜94条 … 材料の許容応力度・材料強度(鋼・コンクリート・鉄筋等)
└ 令96・98条 … 溶接・材料強度
└ 告示
├ 昭55建告1793号 … Z(地域係数)・Rt(振動特性係数)・Ai(高さ方向分布)
├ 昭55建告1792号 … Ds(構造特性係数)・Fes(形状係数 Fs・Fe)
├ 平12建告1455号 … 積雪(区域・単位荷重・多雪区域)
└ 平12建告1458号 … 保有水平耐力に関する基準 等
法令が直接には数値を与えない部材耐力式などは、次の学会規準や指針を根拠とします。
RC 規準:日本建築学会『鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説』。
鋼構造規準:日本建築学会『鋼構造設計規準』および『鋼構造許容応力度設計規準』。
塑性設計指針:日本建築学会『鋼構造塑性設計指針』。
靭性保証型指針:日本建築学会『鉄筋コンクリート造建物の靭性保証型耐震設計指針・同解説』。
終局強度型指針:日本建築学会『鉄筋コンクリート造建物の終局強度型耐震設計指針・同解説』。
技術基準解説書:『建築物の構造関係技術基準解説書』(国土交通省住宅局建築指導課ほか監修)。
SRC 規準:日本建築学会『鉄骨鉄筋コンクリート構造計算規準』。
CFT 指針:『コンクリート充填鋼管(CFT)構造設計・施工指針』。
このほか、規準・指針が式を直接与えない実務的取扱い(床荷重の分配、壁エレメント置換、剛床への荷重按分など)は「実務慣用」と明記し、市販の一貫構造計算プログラムとの突合による検証記録をV&Vに置きます。 製品固有の係数(免震・制振部材、高強度せん断補強筋等)は各製品の技術資料・大臣認定値(Category B)に依拠します。
出典の分類(Category A / B)
本ソフトが用いる数値や式を、原典照合リストの方針に従って次のように区分します。
Category A(法令・告示の公開値):誰でも原典(法令や告示)で照合できる値を指すため、このセクションはこれらを条番号や式番号まで明示します。
Category B(学会規準・私的規準の係数):学会規準や指針に基づく部材耐力式の係数などを指すため、出典の文献名とページを併記し、利用組織がライセンスや実測で確定すべき旨を明記します。
力学の閉形式:ティモシェンコ梁剛性、CMQ、Newmark 更新式のような教科書的な力学式を指すため、原典照合ではなく、理論解と一致するかどうかの数値 DoD で自己検証します(V&V)。
単位系・記号の凡例
内部計算は原則として SI 単位系(N, mm, N/mm²=MPa)で行います。 荒川式のように工学単位系(kgf/cm²)で導出された実験式は、単位換算(1 kgf/cm² = 0.0980665 N/mm²、1 kgf = 9.80665 N)を施してから評価します。
画面での表示単位は、量ごとに実務の慣例へ合わせて換算します(内部の値そのものは常に N-mm 系です)。
| 量 | 内部 | 表示 |
|---|---|---|
| 力(軸力・せん断力・重量) | N | kN |
| モーメント | N·mm | kN·m |
| 単位幅あたりモーメント | N·mm/mm | kN·m/m |
| 階高・建物高さ・スパン | mm | m |
| 断面寸法・鉄筋径・変位 | mm | mm |
| 応力度・材料強度 | N/mm² | N/mm² |
| 面荷重(床・雑壁) | N/mm² | kN/m² |
| 断面積 A・せん断有効断面積 As | mm² | cm² |
| 断面二次モーメント I・ねじり定数 J | mm⁴ | cm⁴ |
| 断面係数 Z(弾性・塑性) | mm³ | cm³ |
| 断面二次半径 i | mm | cm |
| バネ定数・線剛性 | N/mm | kN/mm |
| 粘性係数 C0(マクスウェル) | N·(s/mm)^α | kN·(s/mm)^α |
断面性能を cm 系で示すのは、JIS 形鋼表の慣例に合わせるためです。 同じ量は、どの画面でも同じ単位で表示します。 該当する箇所は各ページで明記します。
主な記号は次のとおりです。
| 記号 | 意味 | 記号 | 意味 |
|---|---|---|---|
F | 鋼材の基準強度(F 値) | Fc | コンクリート設計基準強度 |
σy / σwy | 主筋/せん断補強筋の降伏強度 | pt / pw | 引張鉄筋比/せん断補強筋比 |
E / G | ヤング係数/せん断弾性係数 | A / I / Z / Zp | 断面積/断面二次モーメント/断面係数/塑性断面係数 |
M / Q / N | 曲げ/せん断力/軸力 | Mu / Qmu / Qsu | 終局曲げ耐力/曲げ終局時せん断力/終局せん断耐力 |
Ci | i 層の地震層せん断力係数 | Qud | 地震時の設計用層せん断力 |
Ds | 構造特性係数 | Fes | 形状係数(Fs·Fe) |
このドキュメントは実装が依拠する根拠を説明するものであり、個々の建築物の設計における式の適用可否(適用範囲や前提条件)の判断は、設計者(構造設計一級建築士等)の責任に属します。